NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 僕の「明日はどうするんだ?」という問いに、顔を上げて日向が答えた。

「もちろん、行く。
 明日、ムリして笑っていれば一日で終わる。でも、もし行かなかったら、終わりが見えなくなりそうだから」

 そう答えたあと、「意外と学校は好きなんだよね」と薄く笑う。そんな日向に対し、僕は驚いて目を見開いた。その返事の内容が、想像していたものとは真逆だったからだ。
 今日の出来事は第三者である僕が思い返しても、見事なまでにトラウマものだった。大好きだった彼氏の告白はウソで、ふられた場面を大勢のクラスメートに見られ、さらに嘲笑された。もし自分の身に起きていたら、恥ずかしくて、惨めで、情けなくて、部屋に閉じこもって何日も出られないほどのダメージを受けていたはずだ。それなのに。

「そうか、そうだね」
 僕は曖昧な相槌を打ってごまかした。

 その後、ようやく立ち上がった日向と一緒に家路に着いた。そもそも幼馴染だったため、お互いの自宅はわりと近い、それに、こんな遅い時間帯に、暗い道を一人で歩かせるわけにはいかない。


 連絡もせず遅くなった僕に、母親の小言が降り注いだ。それを受け流しながら夕食を済ませ、いつも通りのルーティーンに入る。自室に戻るとパソコンとスマートフォンでクラスのルームに入室した。今夜だけは、現在の状況を確認しておかなければならない。

 さすがにAのルームに日向の姿はなかった。話題の中心は停学になった真鍋で、魔王を討伐した勇者として皆から賞賛されていた。確かに正義の味方的な活躍ではあったが、個人的にあれは個人的な恨みを晴らしたようにしか見えなかった。それを理解している人もいるだろう。それでも、誰にでもできることではなかったことだけは間違いない。もっとも、僕に真鍋を批評する資格はない。僕は、一部始終を眺めていた卑怯者のクズだ。

 一方のBのルームは大荒れだった。教室に戻るまで勝ち組だった佐々木は、真鍋に殴り飛ばされて負け組に転落した。騒ぎは学校中で噂になっていて、女子生徒からは完全に敵認定されてしまったようだ。「顔の腫れが引かないからみっともなくて外に出られない」との理由で、真鍋と同じく自主的に一週間は休むらしい。
 発端になった加賀はある程度溜飲を下げているようで、今のところ日向のことはどうでもいい様子だ。それに、教師たちから厳しく注意されたため、暫くはおとなしくしている必要がある。

 ルーム内の様子を確認し、「ふう」と息を吐く。
 明日、日向が登校しても、加賀の追い込みはなさそうだ。でも、本当に日向は学校に行くのだろうか。あれほどの辱しめを受け、無関係な者たちの好奇の目にさらされ、本当に耐えることができるのだろうか。

 でも、僕が気にすることでもないな。元幼馴染の僕は、明日はもうただの他人に戻っているはずだから。