―――卑怯者のクズ。
電車に揺られながら、桐島の言葉を思い出す。
ずっと奥に沈めてきた何かが、少しずつ這い上がってくる。
車窓に写った自分の顔が泣いているように見えて、目を瞑って今の自分を必死にかき消す。
違う、違う。
いったい何が違うんだ?
駅に到着するアナウンスが流れ、開いた扉から逃げるように電車から降りる。
逃げる?
何から?
何だよ、何なんだよ。
改札を抜け、徒歩で15分ほどの自宅を目指す。それなりに住民が多い住宅地ではあるが、20時頃の電車を利用する人はすでに少ない。路線バスが立ち寄る程度の駅前ロータリーは狭く、停車している車は2台しか見えない。
僕は駅のロータリーを横切り、いつもの道を使い自宅を目指す。日没時刻は遅くなっているが、もう日が暮れてからかなり時間が経っていて十分に暗い。交通量が減った駅前の通りを、5分ほど歩くといつも立ち寄るコンビニエンスストアが見えてくる。なぜだか真っ直ぐ帰宅する気になれず、自動ドアをくぐった。
コンビニエンスストアでペットボトルの強炭酸パインスカッシュを購入し、店の外に出る。そのまま建物に沿って移動し、店舗の裏側に回り込んだ。そこは店舗の建物と騒音対策で設置されている防音壁との隙間があり、室外機が少々うるさいものの誰も来ない隠れ家的な場所になっている。ちょうど駐車場に設置された街灯の光が適度に届き、幅が1メートルほど空間はなぜか妙に居心地が良い。
あの頃、居場所を無くした僕が逃げ込んでいた場所でもある。友達に合わせる顔がなくて、親に申し訳なくて、恥ずかしくて、毎日ここに隠れていた。そして、僕は答えを見付けて、この薄暗い場所から外に出た。そのはずだったのに。
建物の角を曲がり裏側に回り込むと、そこには先客がいた。制服のまま膝を抱え、項垂れる幼馴染の姿がそこにあった。
「日向か?」
その弱々しい姿が小学生の頃とかぶって、つい昔のように名前で声を掛けてしまう。日向は僕の声に気付き、ゆっくりと顔を上げて振り向いた。その表情は虚ろで、目の焦点が合っていない。掠れた声で、5年ぶりに僕の名前を呼んだ。
「陽斗、君?」
その姿を目にし、日向の気持ちを今さら思い知らされる。佐々木の行為が、いかに残酷な仕打ちであったのかを。
そして、「知っていた」ことの意味を。
僕は震える足に力を込め、どうにか日向の元へと近付き、その隣に腰を下ろした。
近くにある室外機の音が、やけに大きく聞こえる。
少し離れた場所の換気扇の音が、耳の奥に響く。
深い沈黙。
何か言った方がいいのではないか、とは思う。
でも僕には二つの意味で、日向に掛ける言葉を持っていなかった。



