NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 放課後、真鍋は一週間の停学処分になった。本人は何も話さなかったが、水島や高木などグループAのクラスメートたちが担任や生活指導の教師に説明。情状酌量の余地があるとして、校内で暴力行為を行ったにも関わらず一週間の停学で済んだ。
 一方、原因を作った佐々木については、個人的な恋愛問題のもつれだとして説明したこともありお咎めなしとなった。学校側にしても一方だけの言い分を鵜呑みにする訳にもいかず、特に恋愛問題ともなればおいそれと立ち入ることもできなかったのだ。

 ただ、ひとつだけ良かったことがあった。真鍋側の言い分として、加賀のスマートフォンに残る動画の存在がった。しかし、自分たちに矛先が向かうことを恐れた加賀が、ウソ告の記録動画を削除していたのだ。生徒たちの証言によって動画が存在していたことは間違いないものの、メモリーのどこにも保存されていなかった。そのため、加賀はもちろん、佐々木も無罪となったのだ。
 青崎を擁護するサイドからすれば不満は残るものの、あの動画が無くなったことは大戦果だったと思う。

 この日、午後の教室は異常なまで静かだった。
 Aの主要メンバーである青崎と真鍋の不在。佐々木は顔が腫れたためか早退。加賀と住吉、岸田も同様に教室から姿を消した。青崎の醜態に真鍋の停学によってクラスの半分は意気消沈し、少しは良心の呵責があったのか残りの半分もおとなしくなっていた。この状況が明日も続くとは思えないが、クラス内のバランスが崩れたことは間違いない。

 そして、無関係なはずの僕は、なぜか無性にイライラしている。
 手のひらに食い込んだ爪の跡が、ジンジンと熱を持っているからかも知れない。


 放課後、いつものように足早に下校し、市の中心部へと向かう。電車代がそれなりに必要ではあるが、ほかに何か買うわけでもなく、誰かと遊びに行くわけでもない。だから、この出費はそれほど重い負担でもない。

 目立たない暇つぶしの場所を見付けた僕は、いつもの古本屋に寄り立ち読みにふける。全国チェーンのこの古本屋は、立ち読み歓迎と張り紙があるので注意されることもないのだ。
 イラストが薄れた背表紙のマンガを手に取り、昨日の続きを読み始める。桐島のライブ開催は、シャッターが下りる19時過ぎ。それまでは2時間近くある。

 いつもなら夢中になれるマンガに、なぜか集中できない。学校のシーンになると、昼休憩の場面を思い出してしまう。幼馴染という単語を見ると、他人以下になった青崎が頭に浮かぶ。

 ああ、本当にイライラする。
 明日、青崎は学校に来るだろうか。
 これまでのように笑えるだろうか。
 気にしても仕方ないことなのに。
 自分が考えることでもないのに。
 余計なお世話だと分かっているのに。
 自分には関係ないことだと知っているのに。
 僕がいくら言葉を尽くしても慰めることはできないし。
 そんな力もないし。
 そんな役割でもないし。
 そもそも、青崎は僕を無視している。
 無視されている僕にいったい何ができるのか。
 そうだった。
 僕はただのオブジェだった。
 もう考えるのはやめよう。
 やめよう。

 僕はマンガのページを開き、昨日の続きに没頭した。