NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 一瞬静かになっていたものの、再び階段の上がガヤガヤとうるさくなる。取り残されていた佐々木が、足取りも軽く階段を上がって行く。一部始終を見届けた僕は、誰にも気付かれないままその場を後にした。

 明らかなオーバーキルだった。
 やり過ぎだ。
 だけど、今後のことを考えると、あれで良かったのかも知れない。しばらくツライかも知れない。もしかすると初めての失恋かも知れないが、これでスッパリと佐々木のような男とは決別できる。そう、仕方ない。大いなる犠牲だった。


 中央階段を使って教室に戻ると、室温が明らかに下がっていた。
 ざっと教室内を見渡すと、いつも中心にいる青崎の姿が見当たらない。まっすぐに教室に帰らなかったとのかとも思ったが、青崎の机に掛かっていたはずのガバンが無くなっている。そして、その席の向こう側に、窓から校門の方を見下ろす真鍋の姿があった。

 不穏な空気が漂う中、廊下かの奥から騒がしい集団が近付いてきた。廊下を覗いて確認しなくても、それがグループKの集団であることが分かる。何度も繰り返される青崎の名前と嘲笑、嬉々とした加賀の声が響いているからだ。
 教室の前と後ろに別れ、非常階段に集まっていた者たちがバラバラと教室に入ってくる。佐々木の声が聞こえると同時に、真鍋が振り返り、ガラガラと音を立てながら机を押し退けて佐々木に突進。そして、佐々木の胸ぐらをつかんで叫んだ。

「おい、オマエ、青崎に何をしたんだ!!」

 真鍋の勢いに動じることもなく、佐々木が余裕の表情で真鍋の手首をつかむ。

「はあ、何だよこの手は?」

 ある程度、こういう事態になることも想定はしていたのだろう。そもそも、こうなったとしても何の問題もなかった。だからこそ、ウソ告白で青崎を陥れたのだ。人気はともかく、力関係はハッキリしていた。
 面白がって成り行きを見ていた住吉が、ズイと前に出てきて真鍋を睨み付ける。

「おい真鍋、オマエこそ何してんだ。誰に向かってイキってるか分かってんのか?」

 そのとき、住吉の背後で加賀がスマートフォンを掲げた。そして、みんなの視線が集中したことを確認し、その画面をタップする。画面に表示されたのは、少し高い位置から、どこかを見下ろした動画。数秒地面が映され、そこに男女二人の姿が写り込んだ。

 それはウソ告の記録。
 鮮明に聞こえる佐々木の声。
 小刻みに震える青崎の姿。
 画面が何度も大きくブレて、大音量で大勢の笑い声が響く。
 「どっきり、大成功だね」と。
 少し声が震えていたことに、今さら気付いた。

 その声が聞こえた直後、ガタンッと大きな音が教室に響き渡り、佐々木が周囲の机ごと仰向けにひっくり返った。
 怒りに震える真鍋。仲間が殴られたにも関わらず、住吉は床に倒れている佐々木をただ見下ろしている。その後ろにいた加賀は、スマートフォンを掲げたままその場に尻もちをついた。

 5時間目の開始を知らせるチャイムが鳴り響く中、数学の教師が駆け込んでくる。

「お前たち、いったい何をしているんだ!!」


 抵抗することもなく連れ出される真鍋。殴り飛ばされた佐々木は左頬を押さえ、大声で喚きながらその後に続く。クラスメートたちは、教室を出て行く3人の姿を黙ったまま目で追っていた。

 そんな状況の中でふと視線を教室内に戻すと、対角線上に座る桐島と目が合った。