NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 悲劇のプロローグである幸せな時間。壮大なイベント前の茶番が、目の前で繰り広げられている。ストーリーを知っている者たちは薄笑いを浮かべ、予備知識が無い者たちは屈託のない笑顔を見せている。

 真鍋の視線は、同じクラスになってからずっと青崎を追っていた。
 ずっと青崎のことを思い続けていたに違いない。同じ男だし、一応。その表情を見ると、考えていることが手に取るように分かる。特にカーストのトップになるようなヤツの考えることは、本当に分かりやすい。

 ライバルはいない。
 青崎が佐々木を追い掛けようと、敵対グループにいる限り上手くいくことはない。
 時間さえあれば、絶対に振り向かせることができる。
 オレ最高!!ウエーイ!!
 最後は冗談として、余裕綽々で構えていたに違いない。それなのに、夢にも思わなかった展開によって、いつも近くにいた青崎が忽然と目の前から消えた。加賀たちに真鍋まで巻き込む予定はなかった。おそらく、真鍋の気持ちには気付いていない。ただの偶然。それでも、加賀たちの策略は青崎ウソ告イベントの前夜祭として、真鍋の恋心もへし折った。

 ただ、真鍋はトップカーストとしてのプライドは堅持した。
 佐々木に悪態をつくこともなく。
 加賀と住吉に暴言を吐くこともなく。
 取り乱すこともなく。
 青崎に笑顔で「よかったな」と告げた。

 まあ、強がる演技くらいなら僕にもできる。いや、やっぱ、ムリか。
 そもそも僕は、ラストシーンを知っているにも関わらず、ここにこうして静かに座っているのだ。でもね、僕は卑怯者ではない。シナリオを知っていても話すことができない。いつものように同じ場所に座っていることしか許されていない、ストーリーには登場しないキャラクターなんだよ。

 その演出はそれから1週間続いた。
 申し合わせたように、休憩時間は教室の中心付近で二人は落ち合い、青崎の明るい笑い声が響いた。
 長い昼休憩は弁当箱を2つ持った青崎が、佐々木の後ろを追い掛けて行った。
 放課後は二人は別々に、それぞれのグループで過ごしているようだった。

 その光景を眺めていると、モヤモヤとした気持ちが膨らんでいき、胸の奥がザワザワする。


 青崎と佐々木が二人でいることにクラスメートたちが慣れ始めてきた頃、自眼爆弾は忠実に自らの仕事を全うしようとしていた。
 日曜日の23時過ぎ。いつものように会話が弾むグループAのルームの裏側で、加賀がドス黒いオーラを纏ったGOサインを出した。

>さーや:もういーんじゃない?
>るいるい:もー限界
>まい:ホントに付き合っちゃう?
>るいるい:マジやめろ
>あさひ:じゃやるか!!
>さーや:だねーじゃあ観客席があるところで
>あさひ:なら非常階段の下だな
>さーや:じゃあみんな昼休みに2階の非常階段に集合ね
>るいるい:やっと終わるのかー


 「マジか」と、画面を眺めていた僕の口から無意識に言葉が漏れる。

 黄色い電気ネズミのスタンプを押し、脳天気な書き込みを繰り返す絶好調の青崎。
 明日の昼休憩に集合がかかったグループK。
 悲劇のストーリー。その序章が終幕し、ようやく本当の物語りが始まる。敵対する組織の抗争の中で、愛し合うロミオとジュリエットでさえ悲劇的なラストを向かえた。だまされたヒロインは、何をどうやってもハッピーエンドを迎えることはできない。