NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


「ちょっとだけ、いいかな?」

 翌日の昼休憩だった。クラスメートたちが昼食のために準備を始めたとき、佐々木が青崎に歩み寄った。この教室の中では有り得ない光景だった。敵対勢力であるKの主要メンバーが、Aの主要メンバーに声を掛けたのだ。

 佐々木が青崎に向かって歩き始めた瞬間から、教室内が見渡せる位置に座る僕には見えていた。クラスメートたちの反応は、キッチリと2つに分かれていた。何が起きているのか理解できずに、呆然として動きを止めている者たち。そして、必死に笑いを堪えて、観客席から観賞している者たち。否応なしに僕は観客の一人だ。

 唖然として佐々木を眺める真鍋の顔が、盛大に引き攣っている。加賀と住吉は、青崎たちに背を向けた状態で小刻みに震えている。盛り上がるクラスメートと静観するクラスメートの間に道ができ、先を歩く佐々木の後ろに青崎がついて行く。笑顔の佐々木とは対照的に、顔を赤く染めながらも青崎は真剣な表情をしていた。


 ザワザワする。
 なぜだか、心拍数が上がる。
 これまで通りオブジェクトに徹していればいい。
 青崎はメインキャラクターだからこそ、理不尽な苦難が降り注ぐ。
 何も考えるな。
 青崎はメインキャラクターだから、苦難を乗り越えて光り輝く。
 きっとそうだ、そうに違いない。
 僕は信じている。
 何を?
 いったい何を?

 真横を通り過ぎる二人を、いつものように無言で見送った。
 すぐ近くを通り過ぎる青崎に、僕は手を伸ばすことをしなかった。
 少し先の未来で約束された悲劇を、僕だけが止められたのかも知れない。
 だけど、それは僕の役目ではないよね。

 折れない心。
 高い志。
 優れた能力。
 メインキャラクターは僕とは違う。
 自分で立ち上がる。
 僕は君たちの力を知っている。
 僕は君たちを信じている。

 だから、僕は悪くない。


 5時間目の予鈴が鳴り響いたとき、タイミングを見計らったように二人が姿を見せた。並んで教室に入ってきた二人。青崎は満面の笑みを浮かべ、一番仲が良い高木の元へと駆け寄る。今にも泣きそうになっている青崎を抱き締め、笑顔を見せる。本人から何があったのかを聞かなくても、周囲にいる誰もが理解した。
 佐々木は加賀と住吉の近くの机に腰掛け、軽く口角を上げる。満足気に笑う加賀が、目を細めて青崎を見詰めた。二人のアイコンタクトは、作戦が成功したことを如実に表している。その様子を確認した住吉が立ち上がり、一歩ずつ教室の真ん中に歩いて行って口を開いた。

「オレは、この件だけは黙認する」
「アタシもそれでいいよ」

 小走りで住吉の背中に張り付いた加賀が、あざとい仕草で顔を出して続いた。
 二人の宣言を聞いて、Kのメンバーたちが歓声と共に一斉に拍手する。それを受け入れない訳にもいかず、Aのメンバーたちも賛同して手を叩く。このとき、教室の中で反応していないのは僕と真鍋、そして桐島だけだった。


 こうして、時限爆弾を抱えた公認カップルができ上がった。