放課後になると夕方まで時間を潰し、今日もアーケード街に向かう。ほとんど桐島専用のライブ会場になっているアーケードの隅に足を運び、反対側のシャッターにもたれかかりながら彼女の歌声に耳を澄ませる。演奏時間は1時間前後。毎回、最後は教室で見たことがない笑顔で拍手に応え、深々とお辞儀をする。
少しずつではあるが、聴衆が増えている気がする。まあ、僕もその一人だけど。
桐島がギターを片付け始めると、僕は駅へと足を向ける。毎日のようにアーケード街を訪れているが、あの日以降、真二と湊の二人を見掛けたことはない。ドキドキしながら翌日の夕方にスマートフォンの電源を入れたものの、大量のメールが届いているだけで電話が鳴ることはなかった。
帰宅後すぐに食事を終え、母親に急かされながら風呂を済ませると自室に戻る。ローテーブルの上に乗っているノートパソコンに電源を入れ、同時にスマートフォンも操作した。
時刻は22時。パソコンの画面にはA。スマートフォンにはKのグループルームが表示される。どちらのルームも、これくらいの時間帯から動きが活発になる。おそらく、自分以外のクラスメートたちも、これくらいの時間には自室で寛いでいるのだろう。
ペットボトルのキャップを親指で回し、ゴクゴクと喉に流し込みながら書き込みを確認していく。帰宅途中にコンビニエンスストアで買った、強炭酸の飲料水だ。口の中で弾ける刺激を感じながら、それぞれのルームを眺める。
書き込みをしたこともなければ、当然、今後もするつもりもない。誰にも任地されていないが、それでも一応参加だけはしている。何のためなのか、どうしてなのかは自分にも分からない。
それは、あと少しで24時になろうとしているときだった。
きっかけは加賀の一言だった。
>さーや:ホントにさ青崎のヤツさいこーにムカつくんだよねー
いつもの悪態。
>さーや:どうにかなんないのアイツ
いつもなら誰かが同調し、悪口大会が盛大に開催されて終幕する。それが、いつものお約束だった。加賀が青崎に対抗意識を燃やし、周囲に悪口を吹聴して満足する。それが日常だった。それが、微妙なバランスを維持している要因になっていた。でも、それは無意識に行われていたことであり、誰かが少しでも違う行動を取れば一気に崩れてしまう。
>あさひ:おもしれーことがあんぞ
>さーや:なになに?
>あさひ:るいだよ
>さーや:???
>まい:あーもしかしてウソ告とか?
>あさひ:そうそうソレソレ!!ぜってーさいこーに笑えっぞ!!
>さーや:それうけるわー動画とってアップするー?
>まい:やばっ
>あさひ:おーい見てんだろー?
>るいるい:まあやってもいーよヒマだしさ
>るいるい:でもちゃんとフォローしてよ!!変なウワサとか迷惑だしね
>さーや:だいじょーぶだいじょーぶ
>まい:あたしもがんばる!!
>あさひ:おもしろくなってきたなー
誰も止めない。
当然、僕も傍観者を貫く。
正義って何だろうね。
恋心をもてあそぶ最悪の行為。それを目の前で宣言され、高笑いする4人に誰も注意できない。しない。保身のために意見する勇気が出せない人もいるだろう。誰しも自分が一番大切だ。もしかすると、やりとりを見詰めながら歓喜している人さえいるかも知れない。
結局は他人事だ。
特に、僕にとっては究極の他人事だ。縁が切れて5年以上経つ幼馴染など、まったくの他人よりもっと距離が遠い存在だ。どうなろうと知ったことではない。そもそも、僕に立ち入る権限さえない。
自分に降り掛からない火の粉にはリアリティがなく、対岸からただ眺めるだけだ。



