*
村を出て十日ほどが過ぎた日。ようやく辿り着いた、江戸に。
お邦ちゃんにも見せてあげたかったな。見渡す限りの人、人、人。どうやらここはちゃんと食べるものがあるらしい。そりゃそうか、将軍のお膝元だもんね。
とりあえず武器を調達しなきゃならなかったからね。さすがに何かを持って移動となると目立って仕方なかったから。俺的には金棒なんかいいんじゃないかなって思ってさ。
土地勘もないわけで、フラフラ歩いてみてたのね。そしたらなにやら怪しげな店を見つけた。日も当たらず、服が肌に張り付きそうなほどジメジメした路地裏。まるで万人から隠れるかのように、隠されたかのように、ただポッと構えられていて。俺の直感がここだというから入っちゃったよ。お邦ちゃんも知ってるよね、俺の勘はかなり当たるって。
途端、ムワっとカビの匂いに圧倒された。思わず鼻を覆う。そうじゃなきゃもげてしまうかもしれなかった。滲む視界の中、クッと店の中を睨むと一人、老いぼれた爺さんが座ってたんだ。
彼はゆっくりと上の歯三本、下の歯二本の口を開き言った。何が欲しい、と。
俺はむせかえりそうなのを抑え、武器が欲しい、と答えたんだ。爺さんは垢まみれの汚い笑みを浮かべて、好きなの持ってけ。そう呟いた。
爺さんの眼差しの先には刀やら弓矢やら槍やら矛やらが無造作に立てかけられていた。こんなに厳しく武器が取り締められているのにどうしてここまで立派な品々が揃っているのか不思議で仕方なかった。
だからね、極力武器に見えない殺傷能力の高いものはありますかって尋ねてみたんだ。すると爺さんは、表情ばかりでなく声に出して笑った。我が儘な野郎だ、口にするやいなや刀やらが立てかけられているところから四角い木の棒のようなものを掴み取った。いや、あれは確実に木の棒だったね。見たまんま、そのまんま四角く切った木の棒。爺さんと同じくらいの大きさの木の棒。
爺さんはフッとニヤけ、こやつぁ、一見ただの木の棒さ。ただなぁ、加工に加工を繰り返し、鉄をもへし曲げるバケモンに育ててやったんだぁ、なんて言ってた。
パッと俺の方へ投げるから咄嗟に受け取っちゃった。ゴンっと重く、ずっしりと腕に沈み込んだ。こいつだ、そう確信した。
お代は……、言いかけたとき、爺さんはそれを遮った。どうせここには誰も来やしねぇ、なんかの縁だ持ってけ、そうやって。
