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テーブルの上には、鯖の塩焼きとポテトサラダとお味噌汁、そして空っぽのご飯茶碗。
せっかく出来立てを盛りつけたのに、そのどれもがとっくに冷めてしまっている。


『雨衣の体調があまり良くなさそうだから、今日は病室に泊まります』


時刻は午後八時。
数分前に届いた母からのメッセージをもう一度見返して、ため息をついた。
そっけない、必要事項だけのいつも通りの文面。
いらないならもっと早く言ってくれればよかったのに。
わざわざ二人分作って、こうして帰りを待ってた時間って、一体なんだったんだろう。
お皿一つ一つにラップをして、冷蔵庫に押し込んだ。
そのまま風呂場に行って、お風呂を沸かす。
振り返ったとき見えた景色はがらんとしていて、まるで一人暮らしみたいだな、と思った。
寂しくないと言ったら嘘になる。
でもそれを言っちゃいけない空気が、そこにはあった。


『お姉ちゃんだから、家のこと大丈夫よね。よろしく』


メッセージはそんな文面で終わっていた。
お姉ちゃんだから。その言葉が頭にこびりつく。
……なりたくてなったわけじゃない。
同じ時期に同じように母のお腹の中にいたのに、たった数分早く生まれただけで、私は「お姉ちゃん」にされてしまった。


雨は依然として強く振り続けていて、それが窓ガラスに当たるたび、

姉だから……しっかりしなさい。
姉だから……カワイソウな妹のためにガマンしなさい。
姉だから……――。

そう雨に責められている感じがする。


まるで呪文みたいに私の中に根付く言葉。
それは生まれたときからの私の生き方そのもので、今さら覆すことなんてできなかった。
姉で、健康に生まれてしまった(・・・・・・・・)私を、雨が「忘れるな」と警告してくるのだ。


お風呂が沸くまでの数分間、ソファに座って時間をつぶそうとなにげなくスマホをいじっていたら、雨衣が言っていたラジオ配信アプリが目に留まった。
ああ、そうだ。
雨衣が「晴歌ちゃんも入れようよー!」と無理やりインストールしてきたアプリだ。
ラジオ配信かぁ……。知らない人の独り語りに興味ないんだけどな。
それでもなんとなく、雨衣がどうしてもと言うから……と、指がスクロールを始める。


本当にただの気まぐれで。
この日がたまたま大雨で、その雨音をなんでもいいから消し去りたかったのかもしれない。
だからある一人の配信に視線が吸い寄せられたのも、きっと偶然。


雨音(あまおと)ラジオ……」


それは、窓ガラス越しに見る雨のアイコンだった。
雨、か。


「雨の日を特別な日にしませんか、ね」


たった一言だけ書かれた紹介文を読んで、フッと自嘲気味に笑う。
ある意味(・・・・)、雨の日は特別だ。
前向きな言葉が私の心をささくれ立たせていく。
雨の日をいい意味の「特別」にできるものならやってみてよ。
私は、半ばやけくそで「雨音ラジオ」の再生ボタンをタップした。