夏生の視線が、開きっぱなしのパソコンに向かう。
そして、ちらりと私の方を見る。
その一瞬だけで――全部、気づかれたのがわかった。


「べ、別に……聞いたらダメってわけじゃねーけど。も、元々、晴歌に言いたかったこと……だし?」


語尾がどんどん小さくなっていく。
ドアに片手をついたまま、ふいっと顔を逸らして、顔の横あたりをぼりぼりと掻く。


「会ったとき……すぐにわかった。ハレカだって。また会えるなんて奇跡だと思ったんだ。今度こそ……ちゃんと言おうって……だ、だから言っただろ? 晴歌じゃなきゃダメだって」


照れをごまかすみたいに言って、また視線をそらしたまま。
いつもこれでもかってくらい素直なくせに、肝心なときに照れるのなんなの?


「どーだ、俺の五年分の想い……参ったか」


耳が赤い。
その声に、なにかがじわっと広がる。
――愛しさ。


『もし、そんな君を一人の『君』として見てくれる人が現れたら……その時はその人を大切にしてください』


そうだった。
右京先生は、こうなる未来を、どこかで見抜いていたのかもしれない。


ああ、私……夏生のことが、大好きだ。
好きで、好きで……夏生じゃなきゃ、きっとダメなんだ。


「夏生、あのね――」


こんなこと言うのは、もう最後かもしれない。
だって私は雨衣みたいに素直じゃないし。いつも、自分の気持ちを隠してばかりだったから。
でも……今日くらいは、ちゃんと伝えてみようって思った。


「――好き」


たったそれだけ。
けれど、振り返った夏生の顔を見た瞬間――泣きそうで、それでも嬉しそうに笑ってるその顔を見たら……こんな自分もいいかなって、そう思った。