空が、すっかり夏の色になっていた。
じりじりと照りつける日差し。
蝉の声が、どこか遠くでけたたましく鳴いている。
ついこのあいだまで濡れていたアスファルトはすっかり乾いていて、湿った風の気配もどこかへ消えていた。
――ああ、梅雨が明けたんだ。
自然とそんな言葉が胸に浮かぶ。
目の前の空は、何かが終わって、何かが始まるみたいにまぶしくて。
でもそのどこかに、確かにあの日の記憶がしっかりと残っている気がした。
私は空を見上げた。
高く澄んでいて、手の届かないくらい遠いのに――なぜか、少しだけ近くなった気がした。
あの日、雨衣が目を覚ましたあと。
私は病室の前で、何度も足を止めた。
深呼吸をひとつして、そっと扉を開ける。
目が合った瞬間、雨衣が小さく笑って、ぽつりと――
「……晴歌ちゃん」
そのひと言だけで、ちゃんと戻ってきてくれたんだって思えた。
「……ごめん」
そう言うと、雨衣はふふっと笑っただけで、何も言わなかった。
でも、全部わかってるような顔をしていて――それがちょっと、照れくさかった。
本当は、まだちゃんと話せていないことが、心の奥にいくつも残っている。
けれど、目を見て言おうとすると胸の奥がくすぐったくなるようで――どうしても言葉が詰まってしまう。
それでも、きっとこれから少しずつ話していける。
だってもうすぐ、雨衣は退院するから。
私たちはまた、ここから始められる。そう思った。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
指先が、いつものアプリを開いていた。
《本日の配信はありません》
画面に表示されたその文字に、少しだけ寂しさを覚える。
わかってる。もう梅雨は明けて、しばらくは雨も降らない。
夏生の声も、今はお休みだ。
それでも、つい開いてしまうのは――きっと、またどこかで、あの声に会いたいと思ってるから。
膨らんだ「会いたい」はポンッと弾ける。
……会いに、行こうか。
じりじりと照りつける日差し。
蝉の声が、どこか遠くでけたたましく鳴いている。
ついこのあいだまで濡れていたアスファルトはすっかり乾いていて、湿った風の気配もどこかへ消えていた。
――ああ、梅雨が明けたんだ。
自然とそんな言葉が胸に浮かぶ。
目の前の空は、何かが終わって、何かが始まるみたいにまぶしくて。
でもそのどこかに、確かにあの日の記憶がしっかりと残っている気がした。
私は空を見上げた。
高く澄んでいて、手の届かないくらい遠いのに――なぜか、少しだけ近くなった気がした。
あの日、雨衣が目を覚ましたあと。
私は病室の前で、何度も足を止めた。
深呼吸をひとつして、そっと扉を開ける。
目が合った瞬間、雨衣が小さく笑って、ぽつりと――
「……晴歌ちゃん」
そのひと言だけで、ちゃんと戻ってきてくれたんだって思えた。
「……ごめん」
そう言うと、雨衣はふふっと笑っただけで、何も言わなかった。
でも、全部わかってるような顔をしていて――それがちょっと、照れくさかった。
本当は、まだちゃんと話せていないことが、心の奥にいくつも残っている。
けれど、目を見て言おうとすると胸の奥がくすぐったくなるようで――どうしても言葉が詰まってしまう。
それでも、きっとこれから少しずつ話していける。
だってもうすぐ、雨衣は退院するから。
私たちはまた、ここから始められる。そう思った。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
指先が、いつものアプリを開いていた。
《本日の配信はありません》
画面に表示されたその文字に、少しだけ寂しさを覚える。
わかってる。もう梅雨は明けて、しばらくは雨も降らない。
夏生の声も、今はお休みだ。
それでも、つい開いてしまうのは――きっと、またどこかで、あの声に会いたいと思ってるから。
膨らんだ「会いたい」はポンッと弾ける。
……会いに、行こうか。
