「……ラジオ配信かぁ」


たったそれだけのことなのに、できるかな……って、不安がよぎる。
でも――やってみよう。
小さく息を吐いて、頷いた。


「……うん。やってみる、ラジオ。うまいことしゃべれないかもしれないけど……」


そのとき、不意に思い出した。
妹が、よく俺の部屋に入り込んでは、おもちゃのマイク片手に歌ってた。
「お兄ちゃんも、なんか弾いてー!」
そう言いながら、どこで覚えたのか鼻歌みたいなメロディを楽しそうにくり返してたっけ。
俺がなんとなくギターをつま弾くと、「それそれ~!」って笑ってた。
あの頃の時間が、音といっしょに今も胸の奥に残ってる気がする。
だから思ったんだ。
言葉だけじゃなくて、音も一緒に届けてみようって。
たとえ伝え方がうまくなくても――俺なりに、あいつとの記憶を、誰かに繋げられるかもしれないから。


その返事を聞いて、右京先生はごくわずかに口角を上げた。


「入院患者さんにも、すすめてみますよ。君のラジオ」

「……え?」


思わず顔を上げると、先生はあくまで淡々と、でも確かに――俺の背中を押すように、静かに言った。


「言葉に救われる人は、思っているより多いものです。それに君の話は面白いですよ。そういうくだらないことが案外大切なのかもしれません」


先生の横顔を見ながら、ふとこみ上げてきたものがあった。


「……右京先生ってさ、あんまり『医者っぽく』ないよね」


そう言うと、先生はほんのわずかに目を細めた。


「そうですか?」


それは、今まででいちばん柔らかい表情だった気がした。


もし――。
この先、俺の言葉で、誰かが少しでも救われることがあるとしたら。
それはきっと、あの日、誰にも届かないと思ってた自分の声が、ほんの少しだけ前に進んだ証になる気がする。


……いつか。
ハレカに会えたら、伝えたいことがある。
そのときは、ちゃんと自分の言葉で――まっすぐに。