「……たられば、だよね」
自分でも呆れるほど、投げやりな言葉だった。
それ以上、話す気力も残っていなかった。
右京先生はしばらく黙っていた。
ただ、逃げずに俺の顔をまっすぐ見て、
「――可能性、です」
ふと、そう言った。
「君にはまだ、たくさんの可能性がある。それを、自分で否定しないでほしいですね。生き残った意味を、誰かが与えるんじゃなくて……君自身が、これから作っていくんです」
ゆっくりと、でも確かな口調だった。
押しつけでも、綺麗ごとでもなかった。
ただ希望を――静かに差し出してくれていた。
俺は何も言えなかった。
けれど、その言葉は確かにどこかに引っかかった。
心の中のほんの小さな隙間に、何かが落ちてきたような気がした。
――変われるだなんて、まだ思えない。
でも、変わってみたいと……ほんの少しだけ、思った。
リハビリが進み、俺はもう、杖がなくても自分の足で歩けるようになっていた。
まだふらつくこともあるけど、手すりがあればなんとかなる。
その日、俺はいつものように病室の窓際に立って、ぼんやりと中庭を見下ろしていた。
青く塗られたベンチ、植え込みのあいだからのぞく陽射し――ただの風景なのに、なぜか目が離せなかった。
そのとき。
「……うっ……ひぐ……っ」
ふいに、小さな泣き声が聞こえた。
思わず眉をひそめる。
誰かが泣いてる――それだけのことなのに、なぜか胸がざわついた。
気づけば、病室を出ていた。
中庭へと続く階段の踊り場まで来て、そっと下をのぞき込む。
そこに――ひとりの少女がいた。
膝を抱えてうずくまり、小さな肩を震わせながら、声を殺すように泣いていた。
ランドセルがそばに置かれている。
制服じゃないけど、見た目でなんとなくわかる。
きっと、俺と同じくらいの子だ。
顔はよく見えなかったけど、泣き方が、どこか自分に似ている気がした。
誰にも言えなくて、ひとりきりで、どうしようもなく心細い――そんな気持ちを、その子の背中に見た気がした。
どうしてだろう。たまらなく、目を離せなかった。
声をかけようか迷った。
このまま踊り場の窓から顔を出せば、きっと会話くらいはできる。
でも――何を言えばいいのかわからなかった。
俺なんかに、声をかけられたら嫌かもしれない。
そっとしておいてほしいって時もあるし……それに、どこかで自分も怖かった。
そのときだった。
「……雨衣……ばっかり……」
少女の声が、小さく漏れ聞こえた。
「私だって……ひとりで......さみしいのに……言いたいことだって……いっぱいあるのに……」
ハッと息をのむ。
その声が、まるで自分の心の中を代弁しているみたいで――胸がちくりと痛んだ。
自分でも呆れるほど、投げやりな言葉だった。
それ以上、話す気力も残っていなかった。
右京先生はしばらく黙っていた。
ただ、逃げずに俺の顔をまっすぐ見て、
「――可能性、です」
ふと、そう言った。
「君にはまだ、たくさんの可能性がある。それを、自分で否定しないでほしいですね。生き残った意味を、誰かが与えるんじゃなくて……君自身が、これから作っていくんです」
ゆっくりと、でも確かな口調だった。
押しつけでも、綺麗ごとでもなかった。
ただ希望を――静かに差し出してくれていた。
俺は何も言えなかった。
けれど、その言葉は確かにどこかに引っかかった。
心の中のほんの小さな隙間に、何かが落ちてきたような気がした。
――変われるだなんて、まだ思えない。
でも、変わってみたいと……ほんの少しだけ、思った。
リハビリが進み、俺はもう、杖がなくても自分の足で歩けるようになっていた。
まだふらつくこともあるけど、手すりがあればなんとかなる。
その日、俺はいつものように病室の窓際に立って、ぼんやりと中庭を見下ろしていた。
青く塗られたベンチ、植え込みのあいだからのぞく陽射し――ただの風景なのに、なぜか目が離せなかった。
そのとき。
「……うっ……ひぐ……っ」
ふいに、小さな泣き声が聞こえた。
思わず眉をひそめる。
誰かが泣いてる――それだけのことなのに、なぜか胸がざわついた。
気づけば、病室を出ていた。
中庭へと続く階段の踊り場まで来て、そっと下をのぞき込む。
そこに――ひとりの少女がいた。
膝を抱えてうずくまり、小さな肩を震わせながら、声を殺すように泣いていた。
ランドセルがそばに置かれている。
制服じゃないけど、見た目でなんとなくわかる。
きっと、俺と同じくらいの子だ。
顔はよく見えなかったけど、泣き方が、どこか自分に似ている気がした。
誰にも言えなくて、ひとりきりで、どうしようもなく心細い――そんな気持ちを、その子の背中に見た気がした。
どうしてだろう。たまらなく、目を離せなかった。
声をかけようか迷った。
このまま踊り場の窓から顔を出せば、きっと会話くらいはできる。
でも――何を言えばいいのかわからなかった。
俺なんかに、声をかけられたら嫌かもしれない。
そっとしておいてほしいって時もあるし……それに、どこかで自分も怖かった。
そのときだった。
「……雨衣……ばっかり……」
少女の声が、小さく漏れ聞こえた。
「私だって……ひとりで......さみしいのに……言いたいことだって……いっぱいあるのに……」
ハッと息をのむ。
その声が、まるで自分の心の中を代弁しているみたいで――胸がちくりと痛んだ。
