雨音ラジオで君を待つ

双子なのに、雨衣と私は全然似ていない。
たれ目で、丸くて大きな瞳をした雨衣。
一方の私は、少しつり目で、目つきがきついとよく言われる。
柔らかで女の子らしい雰囲気のある雨衣は、昔からお姫様の衣装がよく似合っていた。
それに対して私は、「王子さまの衣装の方が似合うわねぇ」なんて、周りに笑われたことがある。


背丈も、髪型も、声だって似ているのに、どうしてこんなにちがう(・・・)んだろう。
もちろん、二卵性だからというのもあるけれど――たぶん、それだけじゃない気がする。


「わぁーっ、すっごい! わかりやすい! 天才! 晴歌ちゃん、天才!」


持ってきたノートをぱらぱら捲りながら、雨衣が大げさに声をあげた。


「……ふつうだよ。そこまで褒めるようなもんじゃないって」

「そっかなぁ? そんなことないよぉ。晴歌ちゃんのノートってただ板書写してるだけじゃないでしょ? ほら、ここの一文とかちょっとしたメモとか、晴歌ちゃんが考えて書いてくれたんだよね? 授業受けてない私でもちゃんとわかるように書かれてるから、ホンット助かってるんだよ」


雨衣は依然としてノートを見ながら「大感謝! 晴歌ちゃん、大好きーっ」と叫んでいる。
まったく……安静にしてなきゃダメなのに。
ため息をつきつつ、花瓶の中の水を一気に捨てた。
濁った水が、排水溝に吸い込まれていく。
その様子をただボーッと見つめた。


『晴歌ちゃん、大好き』……か。
雨衣は好きなものは「好き」と言い。嫌いなものは「嫌い」と言う。
その、まっすぐ気持ちを伝えてくる素直な姿勢は、私にはとてもじゃないけど真似できない。
だって……言ったって、どうせ届かないって思ってるから。
何かが変わるわけじゃないって、知ってるから。


雨衣が素直であればあるほど、私の心の中でなにかが失われていくような気がするんだ。


「ね、ね、今日学校であったこと教えて?」


ようやく落ち着いた雨衣が、ノートを閉じてこちらを見上げる。
その目は相変わらずきらきらしていて――ちょっと苦しい。
学校であったこと……そう聞いて思い浮かぶのは嫌な記憶ばかりだ。
聞かれる身にもなってほしい。丸椅子に座り直して、ハーッとため息。


「……毎回言ってるけど、何もないってば。学校生活なんて、地味だし」

「いいじゃーん。聞きたいんだもん!」

「…… 雨衣のクラスの上田くん……としゃべったよ」


私の言葉に、雨衣は「わぁ! 上田くん! 元気かなぁ」と嬉しそうな声を上げる。


「雨衣、仲良かったの?」

「んー、仲良いっていうか……たまに学校行った時、すごく親切にしてくれるの! 優しいよねぇ。晴歌ちゃん、上田くんと友達になったの?」

「……ううん、まさか」

「ええーっ? でも上田くんって晴歌ちゃんと合う気がして。友達になってくれたら嬉しいかもー……なんて」 

雨衣が無邪気に笑う。
雨衣はわかってない。
上田くんがなんで雨衣に優しいかを。
雨衣はいつだって、なんにもわかってないんだ。