一瞬、配信画面が静かになる。
誰も何も言わない。コメント欄も、止まったまま。


――やっぱり、言いすぎたのかもしれない。
重かったよね、こんなの。
そう思って、目を伏せかけた、そのとき――。


《ウイちゃん、がんばれ》


ひとつ、コメントが流れる。
その瞬間を合図にしたかのように、次々と文字があふれ出す。


《目、覚ましてあげて。大好きなお姉ちゃんが、こんなに頑張ってるよ》
《お姉ちゃんの声、ちゃんとウイちゃんに届いてるはず》
《ずっと聞いてたよ。ウイちゃん、戻ってきて》
《泣いちゃった……ウイちゃん、帰ってきてね》
《ウイちゃん、ウイちゃん、がんばれ……!》


名前も顔も知らない人たちが――ただ一人の、雨衣のために。
知らなかった。
こんなふうに、想いが繋がる世界があるなんて。


「……っ」


胸の奥が、じんわり熱くなる。
頬を伝って落ちたのは、いつの間にか流れていた涙だった。
私は思わず、スマホの画面を抱きしめるように両手で包んだ。
その温度が、さっきまで震えていた自分の心を、ゆっくりと溶かしていく。

誰かに届いたんだ――。
私の声が。私の言葉が。
こんな私の想いでも、誰かが受け取ってくれたんだ。
たったそれだけのことが、こんなにも嬉しくて、あたたかくて――涙が止まらなかった。


配信が終わって、私はスマホをそっと伏せた。
肩の力が抜けて、深く息を吐く。
緊張の余韻で、手のひらがまだ少し汗ばんでいる。


そのとき、隣で夏生がぽつりとつぶやいた。


「……なあ、今の晴歌さ……ちょっとカッコよすぎじゃね?」

「な、に、それ……」

「いや、ほんと。……全部、ちゃんと伝わってるよ。絶対」


照れくさくて、返す言葉が見つからない。


ふと、風の匂いが変わった気がして、私は顔を上げる。
土管の入り口から空を見上げると、灰色に染まっていた雲がいつの間にか薄くなっていた。
私はゆっくりと息を吸い込む。
心と体がふわりと軽くなっていくのがわかった。

――ああ、雨が上がったんだ。

雲の切れ間から、かすかに光が差していた。
もしかしたら、もう少ししたら――空に虹がかかるかもしれない。

 



雨衣が目を覚ましたと母から連絡があったのは、それから、ほんの数分後のことだった。