「『お姉ちゃんなんだから』――その言葉を、私はずっと自分の中で抱えてた。
しっかりしなきゃ。ガマンしなきゃ。
そうやって気持ちを抑えて、『ちゃんとした姉』でいようとしていたんだ」


今ならわかる。
私は「いい姉」でいることで、自分を正当化してただけだった。


「感情を飲み込んで何も言わずに耐えていれば、誰にも責められないし、自分にも意味があるって思える。
……ずっと、そうやって逃げてたんだ」


静かに言葉を落とすと、コメント欄がゆっくりと動く。

《わかるよ》
《苦しかったね》

そんな誰かの共感が、ほんの少し自分の痛みを和らげてくれる。


「……雨衣が入院してからは、その気持ちがもっと強くなって。『私が代わればよかった』って、何度も思った。
それが姉として当然だって、自分に言い聞かせて。
でも今思えば、それも全部、『いい人』のフリだったんだ」


本当は――ただ怖かっただけ。
誰かに嫌われるのが、拒絶されるのが。
だから、自分の本音を出す代わりに、「責められないポジション」に逃げてただけだったんだ。


「正直……何度も思ってた。雨衣がいなければ、私はもっと楽に生きられるって。
明るくて、素直で、誰からも好かれる雨衣がいなければ……私はもっと自由に、自分らしくいられるんじゃないかって。
ずっと、そう思ってたんだ。でも――」


そうじゃなかった。


「雨衣がいなくても、私はきっと何も変われない。誰かに好かれるわけでも、雨衣みたいになれるわけでもない。私は私でしかないから……」


そこでやっと気づいた。
雨衣のせいじゃなかった。結局、自分の問題は、自分の中にしかなかったんだ……って。


「そして、あの日……私は雨衣にひどいことを言った。雨衣にぶつけた気持ちは、本音だったはずなのに、全然スッキリなんてしなかった。むしろ、もっと苦しくなった」


ようやく言えたはずなのにね。


「それはたぶん……本当は、雨衣のことが大好きだったから。
うらやましくて、悔しくて、妬ましくて……でも、一緒に過ごした日々は、ちゃんとあったよね。
笑って、ケンカして、また笑って。その時間が、私にとって大切だったんだ」


やっと気づけた。
私が向き合わなきゃいけなかったのは、雨衣じゃなくて――自分自身だったんだって。
だから今、ちゃんと伝えたい。
姉としてじゃなくて、「私」として。


「雨衣……！　ひどいこと言ってごめん……。
嫉妬して、勝手に一人でこじらせて。
でも、やっぱり……私は雨衣のことが好き。もう一度ちゃんと話したいよ……」


声がかすれる。
喉の奥が熱い。
それでも私は、もう一歩踏み出すように言葉を絞り出す。


「だからお願い……どうか、目を覚まして――！」