雨音ラジオで君を待つ

だって、夏生が私を好きになる理由なんて――ない。
私より可愛い子なんて、いくらでもいるし。明るくて、素直で、ちゃんと笑える子だって。
それこそ……雨衣、みたいな。
私にこだわる理由は一つもないんだ。
しかもあんな......醜態を晒した後で。
病気の妹にカッとなって酷い言葉を投げつける......なんて、性格悪いにもほどがある。


『信じらんないって……俺ってそんなに信用ない?』

――だって……。

指が止まる。
これ以上は言えそうもない。


だって……会ったでしょう? あの子に。話したでしょう? 雨衣と。
誰だって雨衣を好きになる。
夏生だって……。
たまたま、あの時私が現れただけ。
もし雨衣が現れていたら、きっと雨衣を好きになってた。
……そんなふうにしか、考えられないんだ。


『……それでも、晴歌じゃなきゃダメだったんだよ』


それだけ。
まっすぐに、穏やかに。
でも、まるで答え合わせみたいに――迷いのない声だった。


『もーいいっ!晴歌!! もー意地張るのはやめて、こっち来い! いいか? どうせ今日もずっと雨だ。夕方五時、いつものとこ(・・・・・・)で待ってるからな!』


怒ったみたいな、でもどこか照れた声。
……なんなの、ほんと。めちゃくちゃすぎるんだけど。


それでも。
夏生の声は、雨のざわめきを突き抜けて、私の深いところまで届いてきた。
「助けてやるから来い」――たしかにそう聞こえたんだ。


雨は、まだ止みそうにない。
灰色の空が低く垂れ込めていて、雲の流れは重くゆっくりとしている。
でも、さっきまで感じていた湿った空気が、どこか軽くなった気がした。
風の匂いも、少しだけ変わった。
ほんのかすかに、何かが動きはじめている――。

そんな気がして、私はスマホをそっと握り直した。