雨音ラジオで君を待つ

『……うぉい、晴歌! 今聞いてるの、晴歌だろ!? 晴歌だな!? 晴歌だと思って言うぞ!?
あのなー、なんっっっで来ないんだよ! 俺言ったよな? 『嫌なことも、いいことも全部。晴歌の想い、誰も聞かなくても俺が受け止めるから』って、俺言ったよな?』


え、晴歌――って、今……私?
一瞬、呼吸が止まった。
たしかに聞こえた。私の名前。配信の向こうから、まっすぐに。
驚きすぎて、手が滑る。スマホが落ちそうになって、あわてて抱きかかえた。


『晴歌が悩んでんなら、ちゃんと聞くから。そんなに俺って信用ない? たしかにまー、見た目は真面目とはいいがたいけど、でも。
言ってる言葉は全部本気なんだって』


心臓がバクバクしている。
ちょっと待ってよ。いくら私一人しか聞いてないとはいえ、配信で名前を叫んだりする?
もし聞いてるのが私じゃなかったら洒落にならない。本当にめちゃくちゃなんだから……!
私は急いで指を動かした。


――私はイツモアメですけど。ハレカとか知りませんけど。イツモアメ


するとすぐに反応がある。


『はぁあ!? もうわかってんだからな。ほんっとにどこまでも恥ずかしがり屋だな、晴歌は」

――だからそのイジリやめて。イツモアメ

『ほーーーら、晴歌じゃん』

――イツモアメって言ったらイツモアメなんです。イツモアメ


なにやってんだろ、私。
ふと我に返って、スマホを見つめ直す。
ほんの少しだけ、笑ってた。
夏生の声に、言い合いに――救われかけていた。
雨衣のことがあるのに......。
こんなふうに笑ってて、いいんだろうか。


ほぐれかけた気持ちが、また静かに固まっていくようだった。
嬉しさと、後ろめたさが、ぐしゃぐしゃに混ざっていく。


『だーっもう、素直じゃねーな』


スマホから聞こえる声に心臓が跳ねる。
素直じゃない、って……。
わかってる。そんなの、自分がいちばん。
冗談だって思った。いつもの夏生のノリだってわかってた。
なのに――なんで、こんなに刺さるの。
……夏生にだけは、言ってほしくなかったのに。


「……っ!」


私は、スマホをベッドに勢いよく伏せた。
ぽすん、という鈍い音が雨の中に溶けて消える。
胸のあたりがずっとざわざわして、うるさくて、
どうしたらいいのかわからなかった。


『――素直じゃないし、俺に言えっつってんのになかなか言わんし、誰にも頼らず一人で抱え込むしで、ほんっと世話がやけるよなぁ、晴歌は。


……だけどさ。



そういうところが――俺は、好きなんだよ』


……好き、って。
またそうやってからかって。
本当、夏生ってずるい。
冗談みたいに大事なこと言って、信じさせる気なんてないくせに。
私はそっとスマホを持ち上げる。
画面を見たくなかったはずなのに、手が勝手に動いてた。


――いつも調子いいこと言って、信じらんない。イツモアメ