うそ……。
反射的に、息をのむ。


『……気づいたら、病院だった。
何がどうなったのか、すぐにはわからなかったけど……まぁ、いろいろ察するには時間はかからなかった』


夏生の声がふっと途切れる。沈黙。
ほんの数秒のはずなのに、耳の奥がきーんと鳴るほどの静けさが、スマホ越しに響いてくる。
雨音だけが、やけにくっきりと耳に残った。


『……あの日、出発前に妹とケンカしたって話、さっきしたじゃん?
あのとき、くだらないことで怒って、泣かせて、俺はずーっとムスッとしてさ、妹が話しかけても無視してたんだ』


声が、ほんのわずかに揺れた。


『……それが、最後だったんだ。
あのとき交わした言葉が、あのまま――最後になった』


最後。
その言葉が、胸に鋭く突き刺さる。
だって最後って……そんなの――。


私、夏生について誤解してた。
この人は幸せだから、満たされているから「雨音ラジオ」を配信しているんだって、拒絶されたことがないから思ったことをそのまま言えるんだって――そんな風に思っていた。


――いるよ。すげー可愛いのが一人。

あのときの言葉も、むしろその兄妹仲を想像して羨ましく思っちゃって。

――歳が離れてるとやっぱ可愛く思えるもの?

――んー? ん、まぁね。

歳が離れてたら可愛がるのも仕方ないかな、なんて考えて。



違ったのに。
あんなふうに笑って、てきとうなこと言ってる影で、言葉にできないほどの喪失を抱えてたなんて。
私、何も知らなかった。知ろうともしてなかった。
夏生は、私のことをちゃんと見ようとしてくれていたのにね。


『だから俺は、思ったことはちゃんと口に出すって決めてる。……言えなかった後悔が、いちばん苦しいって知ってるから』


……どうしよう。息が詰まりそう。
私、いっつもそう。
自分のことばかりで、まわりのことなんて見ようともしなかった。
夏生の悲しみも……それに雨衣の本音だって、ずっとすぐそばにあったのに。
ちゃんと向き合っていれば、なにか、変わったかもしれないのに。


『――つーわけで、何が言いたかったかというと、俺はこれからも言いたいことはすぐに言う。
それは、言わなかったら絶対に後悔する――そう思うから出てくる言葉なわけで。
今から言うのもそういうことだから……よーーーーーく、聞いとけよ?』


その言葉に、ドキッとした。
なぜだか、心臓だけが勝手に騒いでる。
スゥ……っと夏生が大きく息を吸う音が聞こえた。