『あー……どこから話せばいいかなー。
いつも偉そうに自分語りしてるくせに、こういう真面目な話って、意外としたことなくてさ。
……意味わかんなかったら、マジごめん。
俺がなんで『雨音ラジオ』を始めたのか――って話。
俺さ、いつも言ってんじゃん。
「雨の日をイイモノに上書きしたい」って。
でもそれってさ……つまり、俺にとって『雨がイイモノじゃなかった』ってことなんすよ』
思わず、ドキッとした。
夏生が私と同じように、雨を「イイモノ」だと思ってなかったことがわかったから。
そっか……私だけじゃなかったんだ。
雨の日に、どうしようもなく沈んでしまうのも、うまく説明できない寂しさを抱えてるのも――。
夏生も、どこかで同じように感じてたんだ。
そのことに気づいた瞬間、胸の奥にぽつんと何かが落ちた気がした。
静かで小さくて……でも確かにあたたかいもの。
私はそのまま、気づけば指を動かしていた。
画面の下のほうにある、手紙のマークをタップする。
……それは前に夏生が話していた、リアルタイムにコメントを送れる機能だった。
――私も雨は嫌い。ナツキにとって、雨はどんなものだったの? イツモアメ。
『……あ。イツモアメさん、ありがとー。俺にとっての雨は……死にたくなるほど嫌なもの、だったね』
それは、いつもの夏生の声。
だけどどこか、笑っているのに笑っていないような響きだった。
「死にたくなる」の言葉が重く沈む。
夏生は、ふう、と息を一つ吐いた。
『あれはー……五年前、か。
俺と父さんと母さんと、妹の四人で――車で出かける予定があってさ。
当時、妹はまだ六歳。まあ、はしゃいでたよね。そうそう、あの日は妹の誕生日で。
遠出して、一泊して……って、まあ普通の家族旅行。
ちなみに俺は、すでに小六のクソガキだったので、『しゃーなしで付き合ってやるかぁ』ってテンションでしたとさ。
んで、いよいよ出発って時に、妹とケンカちしちゃったわけ。
くだらない、ありふれた――どこにでもあるような兄妹ゲンカ。
……たぶん、出かける時間が遅いとか、荷物がどうとか、ほんと、それくらいのどうでもいいことで』
夏生が、ふっと思い出し笑いをこぼす。
『出発して、まあ……ほんとすぐだった。空が一気に暗くなってさ。雨、ポツポツ降ってきて。
すぐ止むっしょ、って……完全に油断してたんだよね。
でも急に土砂降りになってさ。前、全然見えなくなって。
ワイパーも空回りみたいな感じでさ、父さん、ずーっと前にかじりつくみたいな感じで運転してた。
で……そのとき。
対向車が、センターライン越えてきたんだ。マジで、何の前触れもなく。
――もう、どうにもなんなかったよ。』
いつも偉そうに自分語りしてるくせに、こういう真面目な話って、意外としたことなくてさ。
……意味わかんなかったら、マジごめん。
俺がなんで『雨音ラジオ』を始めたのか――って話。
俺さ、いつも言ってんじゃん。
「雨の日をイイモノに上書きしたい」って。
でもそれってさ……つまり、俺にとって『雨がイイモノじゃなかった』ってことなんすよ』
思わず、ドキッとした。
夏生が私と同じように、雨を「イイモノ」だと思ってなかったことがわかったから。
そっか……私だけじゃなかったんだ。
雨の日に、どうしようもなく沈んでしまうのも、うまく説明できない寂しさを抱えてるのも――。
夏生も、どこかで同じように感じてたんだ。
そのことに気づいた瞬間、胸の奥にぽつんと何かが落ちた気がした。
静かで小さくて……でも確かにあたたかいもの。
私はそのまま、気づけば指を動かしていた。
画面の下のほうにある、手紙のマークをタップする。
……それは前に夏生が話していた、リアルタイムにコメントを送れる機能だった。
――私も雨は嫌い。ナツキにとって、雨はどんなものだったの? イツモアメ。
『……あ。イツモアメさん、ありがとー。俺にとっての雨は……死にたくなるほど嫌なもの、だったね』
それは、いつもの夏生の声。
だけどどこか、笑っているのに笑っていないような響きだった。
「死にたくなる」の言葉が重く沈む。
夏生は、ふう、と息を一つ吐いた。
『あれはー……五年前、か。
俺と父さんと母さんと、妹の四人で――車で出かける予定があってさ。
当時、妹はまだ六歳。まあ、はしゃいでたよね。そうそう、あの日は妹の誕生日で。
遠出して、一泊して……って、まあ普通の家族旅行。
ちなみに俺は、すでに小六のクソガキだったので、『しゃーなしで付き合ってやるかぁ』ってテンションでしたとさ。
んで、いよいよ出発って時に、妹とケンカちしちゃったわけ。
くだらない、ありふれた――どこにでもあるような兄妹ゲンカ。
……たぶん、出かける時間が遅いとか、荷物がどうとか、ほんと、それくらいのどうでもいいことで』
夏生が、ふっと思い出し笑いをこぼす。
『出発して、まあ……ほんとすぐだった。空が一気に暗くなってさ。雨、ポツポツ降ってきて。
すぐ止むっしょ、って……完全に油断してたんだよね。
でも急に土砂降りになってさ。前、全然見えなくなって。
ワイパーも空回りみたいな感じでさ、父さん、ずーっと前にかじりつくみたいな感じで運転してた。
で……そのとき。
対向車が、センターライン越えてきたんだ。マジで、何の前触れもなく。
――もう、どうにもなんなかったよ。』
