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「あ、晴歌ちゃん、やっと来たぁ」


病室のドアをガラリと開けて飛び込んできたのは、ピンクの病衣に身を包んだ、雨衣の柔らかな笑顔だった。
まるで天使みたいだ。
なんの変哲もない蛍光灯に照らされているだけなのに、どうしてこんなにもキラキラ輝いて見えるのか。
けれどその頬にほんのりと残る青白さが、体調が万全じゃないことを物語っている。
本を読んでいたらしい雨衣は、私を見るなりパタンと本を閉じ、それをテーブルの上に置いた。
君とか僕とか書いてあるタイトルが目につく。
雨衣が読むのは、もっぱら青春恋愛モノなのだ。


私は後ろ手でドアを閉め、ゆっくりと彼女の方へ歩み寄った。
ベッドのすぐ横に常に置かれている丸椅子に、そっと腰かける。


「ごめんね、玲奈の用事を待ってたら遅くなっちゃった」

「ううん、大丈夫。玲奈ちゃん、元気かなぁ」


舌ったらずで、少しゆっくりなしゃべり方。


「元気だよ。玲奈も雨衣のこと気にしてた。……約束してた数学のノート持ってきたよ」

「うわぁい! ありがと。これでバッチリだ~」


みんなを一瞬で魅了する、華やかな笑み。


「テスト受ける必要ないのに勉強熱心だね、雨衣は」

「もーう、なに言ってるの、晴歌ちゃん。当たり前でしょ? いつ学校行ってもいいように、ちゃあんと勉強しとかなきゃ」


さっきまで笑っていたかと思えば、次の瞬間にはプクッと頬を膨らませている。
そんな、コロコロと変わる表情。


「それに、真面目と言ったら晴歌ちゃんでしょー? お母さん言ってたよ? 塾に入れなくてもいいから助かってるーって」


……それは。
私のことで余計な心配をかけるわけにはいかないから。
私のことまで手が回らないの、わかっているから。
だから頑張って頑張って、誰にも迷惑かけないようにって。「なんでもない」って顔して必死にやってきた。
だけど……そんなこと、雨衣は知らない。知ろうともしない。


「……まぁね。あ、お花のお水換えとこうか」


私はおもむろに立ち上がると、窓辺にあった花瓶を手に取った。
そのついでに、忌々しい雨の景色を隠すため、勢いよくカーテンを閉める。


――雨衣。
私の大事な家族。
私の大事な双子の妹(カタワレ)
私の、大事な――。


「ふふっ、ありがとー、晴歌ちゃん」


雨衣はなにが可笑しいのか、クスクスと笑みをこぼす。
その笑顔が、ずっとずっと眩しくて、眩しすぎて……つらい。