けれどもそれは、母からのメールではなかった。
画面に映っていたのは、見慣れた配信アプリの通知バナー。
《雨音ラジオ 配信が開始されました》
思わず画面を見つめたまま、息を呑む。
それは、聞き逃さないように……と、お気に入りに追加したために送られてくる通知だった。
夏生……。
通知は、あの日から何度か届いていたのを後から見て知った。
でも、アーカイブを聞く気にはなれなかった。
あんな姿を見られたあとで、どうやって夏生と対峙すればいいのか。
ラジオだって、もう、前みたいに心穏やかに聞ける気がしなかった。
まして、夏生に会いになんて行けるはずなかった。
私にとって、大事な場所だった。
夏生のくだらない話に、何度も気持ちをほどかれた。
「受け止めるよ」って言ってくれた、その言葉が、うれしくて仕方なかった。
ただの優しさだったとしても、あの時間に、私は救われていたんだ。
だからこそ大切だったのに――私が壊した。
もう絶対に会えないってそう思っていたのに......今日は、始まる瞬間に立ち会ってしまった。
……まるで呼ばれたみたいに。
夏生......夏生が呼んでるって思ってもいい?
それは都合のいい解釈かもしれないけれど、でも。
ほんの少しだけでいい。
あの声を、もう一度だけ聞きたいと思った。
ただ、それだけだった。
そう思ったときには……――もう画面をタップしていた。
『……ザアアアアアア』
配信が始まった、というわりには、流れてくるのは強くて荒い、雨音ばかり。
画面の端っこに、目のマークと「1」の文字が見えていた。
朝のこの時間、常連リスナーたちはきっと誰も気づいていないんだ。
しばらくそうやって流していたら、小さく『あ』と声がした。
『……――ハロー、ハロー。久しぶりの人も、初めましての人も、おはよ、こんにちは、こんばんは。雨音ラジオ、始まりました』
夏生の声が、いつも通り柔らかく響く。
その瞬間、ドキン、と心臓が跳ねた。
あー、夏生だなぁ。
そう思った途端、目の奥がじわっと滲んだ。
気づいてなかった。私、こんなにも、会いたかったんだ。
『えーとね、今これを聴いてくれているたった一人のダレカサン。そう、そこのキミにだけ、今から俺の超特大ヒミツを語ろうと思いまーす』
始まったのは、夏生らしい、だけどあまりにも突拍子もない配信だった。
画面に映っていたのは、見慣れた配信アプリの通知バナー。
《雨音ラジオ 配信が開始されました》
思わず画面を見つめたまま、息を呑む。
それは、聞き逃さないように……と、お気に入りに追加したために送られてくる通知だった。
夏生……。
通知は、あの日から何度か届いていたのを後から見て知った。
でも、アーカイブを聞く気にはなれなかった。
あんな姿を見られたあとで、どうやって夏生と対峙すればいいのか。
ラジオだって、もう、前みたいに心穏やかに聞ける気がしなかった。
まして、夏生に会いになんて行けるはずなかった。
私にとって、大事な場所だった。
夏生のくだらない話に、何度も気持ちをほどかれた。
「受け止めるよ」って言ってくれた、その言葉が、うれしくて仕方なかった。
ただの優しさだったとしても、あの時間に、私は救われていたんだ。
だからこそ大切だったのに――私が壊した。
もう絶対に会えないってそう思っていたのに......今日は、始まる瞬間に立ち会ってしまった。
……まるで呼ばれたみたいに。
夏生......夏生が呼んでるって思ってもいい?
それは都合のいい解釈かもしれないけれど、でも。
ほんの少しだけでいい。
あの声を、もう一度だけ聞きたいと思った。
ただ、それだけだった。
そう思ったときには……――もう画面をタップしていた。
『……ザアアアアアア』
配信が始まった、というわりには、流れてくるのは強くて荒い、雨音ばかり。
画面の端っこに、目のマークと「1」の文字が見えていた。
朝のこの時間、常連リスナーたちはきっと誰も気づいていないんだ。
しばらくそうやって流していたら、小さく『あ』と声がした。
『……――ハロー、ハロー。久しぶりの人も、初めましての人も、おはよ、こんにちは、こんばんは。雨音ラジオ、始まりました』
夏生の声が、いつも通り柔らかく響く。
その瞬間、ドキン、と心臓が跳ねた。
あー、夏生だなぁ。
そう思った途端、目の奥がじわっと滲んだ。
気づいてなかった。私、こんなにも、会いたかったんだ。
『えーとね、今これを聴いてくれているたった一人のダレカサン。そう、そこのキミにだけ、今から俺の超特大ヒミツを語ろうと思いまーす』
始まったのは、夏生らしい、だけどあまりにも突拍子もない配信だった。
