――雨衣。
私の大事な家族。
私の大事な双子の妹(カタワレ)
…いつからだろう。
「姉」として、しっかりしなきゃって思い始めて。
「私のほうが頑張らなきゃ」って、勝手に距離をつくって――。

その存在はいつしか、鎖のように私に絡みついて、身動きが取れなくなっていた。
疎ましくて、妬ましくて。
雨衣がいるから比較されるんだって、私の至らなさが際立つんだって。
そんなふうに思ってしまう自分が、一番嫌いだった。
……でも、それでも、思わずにはいられなかった。


だって雨衣のせいにしないとつらくて。つらくて。つらくて。
私を保っていられなかった。


雨衣がいなければ、そんなしがらみからも解放される。
雨衣がいなければ、くだらない劣等感を味わわなくてすむ。
雨衣がいなければ……――私はきっと幸せなんだ。


それなのに――どうしてこんなに、寂しいんだろう。


雨衣。
あんたのいない世界はどこか欠けていて……つまらないよ。




︎︎ ︎☂︎︎︎ ︎☂︎ ︎☂︎ ︎︎☂︎



――雨の音が、静かに聞こえていた。



まぶたの裏に、淡い明るさがにじんでいる。
外は、たぶん今日も雨だ。
私はゆっくりと目を開けた。
ひんやりとした頬に、そっと指先を当てる。
……涙だった。いつの間に、泣いていたんだろう。


夢を見ていた気がする。
何を話していたのか、何を思ったのか――はっきりとは思い出せないのに、胸の奥がほんのり痛かった。


雨衣が倒れてからのことは、ぼんやりとしていて、思い出そうとすると霧の向こうに消えていく。
誰かが救急車を呼んでくれたらしく、私がそれに付き添って病院へ向かったのか、ただ見送っただけなのかも、あやふやだった。
ただひとつ……雨衣が担架に乗せられて、濡れた道路の上を運ばれていくあの光景だけは、目に焼きついている。


――雨衣。


あれから数日が過ぎた。
雨衣はずっと眠ったまま。
医学的には問題ないと言われているのに、どうしても目を覚まさない。
母は病院に泊まり込み、私は学校にも行けず、この部屋にひとりきり。
静かすぎる空間が、じわじわと重くのしかかってくる。
でも、この静けさは、ただの寂しさじゃない。
もっと沈んでいて、苦くて、逃げ場のない――後悔。


私のせいだ。
私が、雨の中……雨衣を走らせたから。


私のせいだ。
私が、あんなことを言ったから。


私のせいだ……――。


ずっと隠してきた思い。言いたかったことを吐き出したはずなのに心は全く晴れなくて。
それどころかどんどん曇って苦しいよ。
こんな私のことを「尊敬してる」って、雨衣は言ってくれたのに。
私は雨衣に嫌なことしか言えなかった。


込み上げる感情に、思わず顔を伏せた。
シーツを握りしめた手が力なくほどけて、腕がベッドの端へとずり落ちる。
その拍子に、何か硬いものに触れた。


コトン、と軽い音。


「あ……」


ベッドの下に落ちたスマホを拾い上げた瞬間、ピコンと小さな電子音が鳴った。
雨衣が目覚めたっていう、母からのメールかもしれない。