校門をくぐると、すでに視線が集まっているのがわかった。
無理もない。数か月ぶりに、あの「カワイイ方の双子の妹」が戻ってきたのだから。
「わっ、本当に戻ってきたんだ!」
「おかえり雨衣ちゃん!」
「制服、似合うね」
そんな言葉が次々と飛んでくる。
雨衣は「ありがと~」と照れたような笑みを浮かべて、ひとりひとりの名前を呼んで返す。
入院していたとは思えないほど自然で、空気を滑らかにする言葉をちゃんと選んでる。
こういうところ、雨衣は本当にうまいと思う。
雨衣フィーバーはそれだけでは終わらず、休み時間のたびに雨衣の机のまわりには人だかりができた。
様子を見ようと、毎回隣のクラスを覗きに行く私には、肝心の雨衣の姿すら見えないほどに。
「雨衣ちゃん、久しぶり~!」
「元気になってよかったね」
「な、な、俺のこと覚えてる⁉」
そんな声が、廊下にいる私の耳にもはっきり届いてくる。
普通ならちょっと引きそうな質問にも、雨衣は――
「美玖ちゃん、久しぶり!」
「ありがとう~!」
「もちろん。高島くん、だよね?」
――ひとりひとりに、ちゃんと笑顔で返していた。
雨衣らしいな、と思う。
双子だからこそ、私との違いが、嫌というほど浮き彫りになる。
「おー、雨衣ちゃん人気だねぇ」
私の隣で、同じように教室をのぞき込んでいた玲奈が、面白がるようにそう呟いた。
「……ん」
私は、曖昧な笑みを浮かべて頷くしかなかった。
別にいい。こうなることなんて、わかってた。
今さら、雨衣との違いに傷ついたりなんかしない。
私はただ、「雨衣の姉」で、「カワイクない片割れ」で、「影」だった――。
そのことが、今日はっきりしただけ。
――そこから切り離したっていいんです。
右京先生の言葉が、ふいに頭の中で反響する。
でも先生。
「雨衣と切り離して私を見る」なんて、やっぱり私には――できそうにありません。
︎︎ ︎☂︎︎︎ ︎☂︎ ︎☂︎ ︎︎☂︎
「本当にいいの? 雨衣」
放課後、私は、友達数人と机を囲んでいる雨衣にそっと声をかけた。
机の上には開きっぱなしの数学の問題集。
入院中、「放課後に友達と勉強会とかしてみたいなぁ」なんて言っていたっけ。
「うん、わからないところ教えてもらってるから、晴歌ちゃんは先に帰ってて~」
私の方を見もせずに、雨衣は問題集と睨めっこしながら、そう応えた。
......そっか、そうだよね。
心配だけど……雨衣はこう見えて頑固なので、あまりしつこくすると後で面倒だ。
「雲行き怪しいからなるべく早く帰るんだよ? お母さんも心配するし」
「お母さんにはさっきメールしたから大丈夫だもーん。折り畳みあるから雨降っても平気!」
本当に? と言いたいのをぐっと堪えて隣の教室を後にした。
「雨衣のお姉さんって過保護だねー」と、そんな声が聞こえてきて、胸の奥がチリッとした。
無理もない。数か月ぶりに、あの「カワイイ方の双子の妹」が戻ってきたのだから。
「わっ、本当に戻ってきたんだ!」
「おかえり雨衣ちゃん!」
「制服、似合うね」
そんな言葉が次々と飛んでくる。
雨衣は「ありがと~」と照れたような笑みを浮かべて、ひとりひとりの名前を呼んで返す。
入院していたとは思えないほど自然で、空気を滑らかにする言葉をちゃんと選んでる。
こういうところ、雨衣は本当にうまいと思う。
雨衣フィーバーはそれだけでは終わらず、休み時間のたびに雨衣の机のまわりには人だかりができた。
様子を見ようと、毎回隣のクラスを覗きに行く私には、肝心の雨衣の姿すら見えないほどに。
「雨衣ちゃん、久しぶり~!」
「元気になってよかったね」
「な、な、俺のこと覚えてる⁉」
そんな声が、廊下にいる私の耳にもはっきり届いてくる。
普通ならちょっと引きそうな質問にも、雨衣は――
「美玖ちゃん、久しぶり!」
「ありがとう~!」
「もちろん。高島くん、だよね?」
――ひとりひとりに、ちゃんと笑顔で返していた。
雨衣らしいな、と思う。
双子だからこそ、私との違いが、嫌というほど浮き彫りになる。
「おー、雨衣ちゃん人気だねぇ」
私の隣で、同じように教室をのぞき込んでいた玲奈が、面白がるようにそう呟いた。
「……ん」
私は、曖昧な笑みを浮かべて頷くしかなかった。
別にいい。こうなることなんて、わかってた。
今さら、雨衣との違いに傷ついたりなんかしない。
私はただ、「雨衣の姉」で、「カワイクない片割れ」で、「影」だった――。
そのことが、今日はっきりしただけ。
――そこから切り離したっていいんです。
右京先生の言葉が、ふいに頭の中で反響する。
でも先生。
「雨衣と切り離して私を見る」なんて、やっぱり私には――できそうにありません。
︎︎ ︎☂︎︎︎ ︎☂︎ ︎☂︎ ︎︎☂︎
「本当にいいの? 雨衣」
放課後、私は、友達数人と机を囲んでいる雨衣にそっと声をかけた。
机の上には開きっぱなしの数学の問題集。
入院中、「放課後に友達と勉強会とかしてみたいなぁ」なんて言っていたっけ。
「うん、わからないところ教えてもらってるから、晴歌ちゃんは先に帰ってて~」
私の方を見もせずに、雨衣は問題集と睨めっこしながら、そう応えた。
......そっか、そうだよね。
心配だけど……雨衣はこう見えて頑固なので、あまりしつこくすると後で面倒だ。
「雲行き怪しいからなるべく早く帰るんだよ? お母さんも心配するし」
「お母さんにはさっきメールしたから大丈夫だもーん。折り畳みあるから雨降っても平気!」
本当に? と言いたいのをぐっと堪えて隣の教室を後にした。
「雨衣のお姉さんって過保護だねー」と、そんな声が聞こえてきて、胸の奥がチリッとした。
