――雨衣が、戻ってきた。
「本当に大丈夫? 転ばないようにね。信号、階段、ちゃんと気をつけるのよ。体育は見学。少しでも体調が悪かったら、保健室で休ませてもらうのよ?」
「もー、子どもじゃないんだから大丈夫だよぉ」
母はさっきから、雨衣の制服を整えながら、同じ確認を何度も繰り返している。
そんな母に、雨衣は少しだけ口をとがらせて見せた。
「……よし、これでいいわね」
ようやく雨衣から手を離した母は、制服姿をじっと見つめて、満足そうに微笑んだ。
「なにかあったら、晴歌を頼りなさいね?」
「当たり前じゃーん。えへへ、晴歌ちゃん、よろしくね」
そう言いながら、雨衣はそばで見ていた私の腕を不意にぎゅっと引っぱった。
嬉しいはずなのに、胸のどこかがずっとざわざわしている。
その正体は、自分でもうまく言葉にできなかった。
「うわぁ、いい天気だね」
外は久しぶりの快晴だった。
まだ梅雨の途中だというのに、空は嘘みたいに澄んでいて、遠くの山並みまでくっきりと浮かんで見えた。
濡れたアスファルトが陽に照らされて、ところどころ白く乾きはじめている。
風がそよぐたびに、葉のあいだから木漏れ日が揺れて――その柔らかな光が、雨衣の頬にふわりと映った。
まるで、季節の境目が一瞬だけ微笑んだような、そんな朝だった。
「楽しみだなぁ、学校。楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったんだ」
「お願いだから倒れないでね?」
「晴歌ちゃんまでお母さんみたいに言うー。そんな無茶はしないよぉ」
「どうだか」
「それに晴歌ちゃんがいてくれれば大丈夫なんだもーん」
雨衣が笑いながら、私の腕にぴたっと絡みついてくる。
漂ってくるのは、消毒液じゃない、フローラル系のヘアオイルの香り。
その甘い香りに包まれて、不思議な気持ちになった。
本当に……雨衣は、戻ってきたんだ。
「本当に大丈夫? 転ばないようにね。信号、階段、ちゃんと気をつけるのよ。体育は見学。少しでも体調が悪かったら、保健室で休ませてもらうのよ?」
「もー、子どもじゃないんだから大丈夫だよぉ」
母はさっきから、雨衣の制服を整えながら、同じ確認を何度も繰り返している。
そんな母に、雨衣は少しだけ口をとがらせて見せた。
「……よし、これでいいわね」
ようやく雨衣から手を離した母は、制服姿をじっと見つめて、満足そうに微笑んだ。
「なにかあったら、晴歌を頼りなさいね?」
「当たり前じゃーん。えへへ、晴歌ちゃん、よろしくね」
そう言いながら、雨衣はそばで見ていた私の腕を不意にぎゅっと引っぱった。
嬉しいはずなのに、胸のどこかがずっとざわざわしている。
その正体は、自分でもうまく言葉にできなかった。
「うわぁ、いい天気だね」
外は久しぶりの快晴だった。
まだ梅雨の途中だというのに、空は嘘みたいに澄んでいて、遠くの山並みまでくっきりと浮かんで見えた。
濡れたアスファルトが陽に照らされて、ところどころ白く乾きはじめている。
風がそよぐたびに、葉のあいだから木漏れ日が揺れて――その柔らかな光が、雨衣の頬にふわりと映った。
まるで、季節の境目が一瞬だけ微笑んだような、そんな朝だった。
「楽しみだなぁ、学校。楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったんだ」
「お願いだから倒れないでね?」
「晴歌ちゃんまでお母さんみたいに言うー。そんな無茶はしないよぉ」
「どうだか」
「それに晴歌ちゃんがいてくれれば大丈夫なんだもーん」
雨衣が笑いながら、私の腕にぴたっと絡みついてくる。
漂ってくるのは、消毒液じゃない、フローラル系のヘアオイルの香り。
その甘い香りに包まれて、不思議な気持ちになった。
本当に……雨衣は、戻ってきたんだ。
