私を――雨衣の姉じゃなくて、ただの「私」として見てくれる人?
そんな人が……この世界に……――。


「……右京先生って、あまり医者っぽくないですね」

「それ、昔まったく同じことを言われたことがあります」


右京先生は相変わらず表情を変えないままだった。
なのに――なぜかその顔が、優しさに満ちているように見えた。


「――ということで、そろそろ戻りましょうか。晴歌さんが来ないと雨衣さんたちが不審に思うかもしれませんしね」


先生は、フェンスから静かに身を離し、手にしていた紙コップをぐしゃりと音を立てて握りつぶした。
そして私をチラリと見ては、無言で歩き出す。


「あの……! 先生が雨衣にラジオ配信アプリを勧めたって、本当ですか?」


私は、歩き出した先生の背中にそっと声をかけた。
その言葉に、先生はぴたりと足を止め、静かに振り返る。


「……そうですけど、それが何か?」

「なぜですか」

「それは……――お気に入りの配信者がいるから、ですよ」


そのとき、ほんのわずかに口元が上がった。
その何気ない仕草に、私ははじめて――先生の素顔の一端を見た気がした。