――バカだ。


傘の意味もなさないくらいの強い雨が、私の頬に体に、痛いくらいに降り注ぐ。
それでも傘の柄をぎゅっと握り、水たまりも避けることなく無我夢中で走った。
跳ね返った泥水が靴下に滲む。ぐしゃりと濡れた嫌な感触が足裏を伝った。


「……っ……」


――バカだ。バカだ。


土砂降りのこの雨は、私の中にある何かを無理やり引きずり出すみたいに容赦なく降り続ける。
いっそこのまま、傘を投げ出して、全部洗い流されてしまいたい。
その方がずうっといい。
……でも、できない。


「は……ぁっ……」


……私は大バカだ。
そんなの、わかってたことなのに。
雨衣の方がいいに決まってるって。
だけど……だけど、ほんの少しだけ。
もしかしたらこの人は私のことが好きなのかもって。
そんな風に思ってしまった。
真剣に、どう答えたらいいだろうって考えてしまった。
とんでもなく惨めで、不格好で……バカだ。
そんなこと、あるわけないのに。


『つまんないんだよなぁ』


わかってる、そんなの。私が一番わかってるよ。


『雨衣ちゃんだったらそんなこと絶対ナイね』


わかってるってば。雨衣と私はちがうんだって。




わかってるけど……私の人生から切り離せない――雨衣。
あの子の名前が、姿が、存在そのものが――今も、私の輪郭を塗りつぶしていく。