私のこと……。
「……なんて言ってました?」
「とてもいいお姉さんだと。真面目で勤勉で、いつも自分を励ましてくれると言っていましたよ」
「……でしょうね」
雨衣がそう言うのは、もう分かりきっていた。
そして、それが「本当の私」なんだと、何の疑いもなく信じてる。
母にとっても、雨衣にとっても――私がそうである限り、安心なんだろう。
だから私は、そう見えるようにしてきた。
わざわざ疑われるようなことは言わずに、バランスを壊さないように。
……たとえ、それが本当の私じゃなかったとしても。
「でも、違いますよね」
右京先生の声が、静かに割り込んできた。
「それって本当の晴歌さんじゃないですよね」
「え」
驚いて右京先生の顔を見た。
けれど先生は変わらず、遠くの景色に視線を向けたままだった。
その横顔からはやっぱりなにも読みとれない。
「えっと……先生って人の心が読めるんですか?」
もう、そうとしか思えなかった。
あのガラス玉みたいな目で、私の内側を見透かしているんだ。
けれども先生はちっとも面白くなさそうに「ふ」と鼻で笑ってみせた。
「すみません。この仕事をしていると、なんとなく分かるんです。患者のことも……そのご家族のことも」
「……はあ」
「患者のご家族には、だいたい二通りの傾向があります。ひとつは、患者と心を重ねすぎて、自分まで一緒にすり減ってしまうタイプ。もうひとつは、患者に心配をかけまいと、自分を偽ってしまうタイプです。……君は、後者なのでは?」
驚いた。
あまりにも図星すぎて、言葉が出なかった。
ずっとそばにいた雨衣にも、母にも気づかれたことはないのに。
たった数回顔を合わせただけの右京先生が、それを見抜いたなんて――。
「あの……」
「『慣れる』なんてことは、ないと思います」
「え……」
「誰かに言われたわけじゃなく、自分でそうすると決めたとしても……放っておかれることに、慣れるなんてことはないんです」
心臓を抉られるような痛みが襲う。暴いてほしくない。暴かないで、私のこと。
「そ、れは……でも……仕方ないんです。先生も雨衣を診てきたならわかるでしょう? 雨衣は本当にいい子で……みんな誰しもが思ってる。『なんであんないい子が』……って」
愛想がよくて、素直で、要領がいい妹。
かたや姉は、無愛想で、素直になれなくて、要領が悪い。
そんなの、誰だって思うでしょう?
――姉の方が入院すればよかったのに……って。
「……なんて言ってました?」
「とてもいいお姉さんだと。真面目で勤勉で、いつも自分を励ましてくれると言っていましたよ」
「……でしょうね」
雨衣がそう言うのは、もう分かりきっていた。
そして、それが「本当の私」なんだと、何の疑いもなく信じてる。
母にとっても、雨衣にとっても――私がそうである限り、安心なんだろう。
だから私は、そう見えるようにしてきた。
わざわざ疑われるようなことは言わずに、バランスを壊さないように。
……たとえ、それが本当の私じゃなかったとしても。
「でも、違いますよね」
右京先生の声が、静かに割り込んできた。
「それって本当の晴歌さんじゃないですよね」
「え」
驚いて右京先生の顔を見た。
けれど先生は変わらず、遠くの景色に視線を向けたままだった。
その横顔からはやっぱりなにも読みとれない。
「えっと……先生って人の心が読めるんですか?」
もう、そうとしか思えなかった。
あのガラス玉みたいな目で、私の内側を見透かしているんだ。
けれども先生はちっとも面白くなさそうに「ふ」と鼻で笑ってみせた。
「すみません。この仕事をしていると、なんとなく分かるんです。患者のことも……そのご家族のことも」
「……はあ」
「患者のご家族には、だいたい二通りの傾向があります。ひとつは、患者と心を重ねすぎて、自分まで一緒にすり減ってしまうタイプ。もうひとつは、患者に心配をかけまいと、自分を偽ってしまうタイプです。……君は、後者なのでは?」
驚いた。
あまりにも図星すぎて、言葉が出なかった。
ずっとそばにいた雨衣にも、母にも気づかれたことはないのに。
たった数回顔を合わせただけの右京先生が、それを見抜いたなんて――。
「あの……」
「『慣れる』なんてことは、ないと思います」
「え……」
「誰かに言われたわけじゃなく、自分でそうすると決めたとしても……放っておかれることに、慣れるなんてことはないんです」
心臓を抉られるような痛みが襲う。暴いてほしくない。暴かないで、私のこと。
「そ、れは……でも……仕方ないんです。先生も雨衣を診てきたならわかるでしょう? 雨衣は本当にいい子で……みんな誰しもが思ってる。『なんであんないい子が』……って」
愛想がよくて、素直で、要領がいい妹。
かたや姉は、無愛想で、素直になれなくて、要領が悪い。
そんなの、誰だって思うでしょう?
――姉の方が入院すればよかったのに……って。
