それが判明したのは、「雨音ラジオ」のアーカイブを最新のものから順に聞いていたときだった。


雨の日にしか更新されない、ちょっと不定期な配信。
ざっと遡っても、このアプリではおよそ3ヶ月分しか残らない仕組みらしく、最初の方はもう聞けなかった。
それでも数えていけばざっと数千近くの配信があり、タイトルにはどれも「#〇〇」と番号が振られていた。
だけど最後に残っていたのは「#2」。
……あれ? 普通こういうのって、「#1」から始めるものじゃないの?


「ねえ、夏生」


何気ないふうを装ってそう尋ねると、ギターを抱えた夏生がゆっくりとこちらを振り返った。
妙にぎこちない笑みを浮かべながら、口から出た第一声は――。


「……ドキィ」

「……ドキィって実際に言う人初めて見た」

「えっへへ、それはね、ヒミツなんですぅ……」


なにその口調。怪しさしかない。
その変な口調のまま「誰しも秘密を持っているものですぅ」なんてことをブツブツ言っているので、面倒くさくなってもういいかなという気持ちになった。
そんな夏生を放って、土管から顔を出す。
ちょうど雨が上がったらしい。雲の切れ間から光が差し込んで、濡れた地面をやわらかく照らしている。
生ぬるい風は、けれどもどこか澄んでいて爽やかだ。


「お、雨あがったかぁ」


すっかり元通りの夏生が、私の背後から顔を出し、眩しそうに外を見る。
この近すぎる距離感ももはや慣れた。


「今日、なんでしょ? 妹ちゃんの退院」

「うん……」


そう、今日はいよいよ雨衣が退院する日だ。
不安がないと言ったら嘘になる。
だって雨衣が戻って来たら、この世界はきっと、もう今のままではいられない。
静かに、でも確かに、何かが変わってしまう気がするから。


「大丈夫だって、なんとかなるなる」


ね? と夏生が笑う。
でもたしかに、夏生がそう言うならなんとかなる気がするんだ。
それに私には雨音ラジオ(この場所)がある。
だから、きっと――。


「じゃあ、行ってくる」


一足先に土管から飛び出ると、背中から夏生の「顔が怖い先生によろしくー」という叫び声が飛んできた。
その声が追い風になって、私の足取りを軽くする。


 

きっと――大丈夫。