「あれ。ダメ? いいアイディアだと思うけど。ほら、俺みたいな部外者だと言いにくいことも言えるかもしんないし。家族や学校の愚痴ウェルカムよ?」

「だ、ダメだよ。そこまでしてもらえない」

「なんでー」

「だって……この前会ったばかりの他人なのに……夏生こそなんでそんなこと言うの」

「好きだからに決まってんじゃん」

「……おかしいよ。変だよ」


変だよ、そんなの。
よく知りもしないのに「好き」って言ったり「受け止める」って言ったり……夏生はおかしい。
だけど……。


なにより、嬉しいんだ。
嬉しくて嬉しくて、そんな嬉しさを隠すように、私はフッと目を逸らす。


「……私のワガママ全部受け止めるって言ったって……重いよ? 嫌な気持ちになる、絶対。うんざりして……友達やめたくなる。だって私が私自身にうんざりしてるのに……」

「晴歌」


夏生の声がふわっと近づいてきて、
次の瞬間、両手がそっと私の頬に触れた。
戸惑う間もなく、ぐいっと顔をこちらに向けさせられて――


「えい、タコチュー」

「……はふひ?」


頬を思い切りむぎゅっと潰され、情けない顔にされる。


「プ……ククッ……や、ヤバいだろ晴歌。その顔反則……!」


あっけにとられたままの私の前で、夏生がケラケラと笑う。
……夏生って、なんなの、本当。
ふざけてると思ったら不意に真面目になって、そうかと思えばまたふざけて。
どっちが本当の夏生なんだろう。
ぐちゃぐちゃに振り回されて、それでも目が離せない。


そんな夏生がひとしきり笑った後、目じりにたまった涙をぬぐいながら、こう言った。


「――晴歌の大事な気持ちだろ? ワガママなんかじゃない」


たったそれだけの言葉に、心がグラリと揺れた。
なんで……。
なんでこの人はこんなにも優しいんだろう。なんで言ってほしい言葉を言ってくれるんだろう。
こんな私なんかに。

すがってしまいそうになる。
すがっても……いいのかな。


「……夏生って、優しいね。ただの承認欲求強めの人かと思って、ごめん」

「んん⁉ え、なに、俺のことそんな風に思ってたんかい」

「あ、最初ね? 今はそんなこと思ってないよ」


ショックだわぁと嘆く夏生を見てプッと吹き出した。
すごいな、夏生は。
話しているだけで安心する。
夏生といると、空気がふわっと軽くなる。
自分を少しだけ許してもいい気がしてくる。
ここにいてもいいんだって。
この場所に、自分のままでいてもいいんだって。
そんな風に思えるなんて、ずっと思ってなかった。

ありがとう――。

心の中でそっと、そう呟いた。
「雨音ラジオ」を配信してくれて、私と出会ってくれて。
この奇跡みたいな偶然に、私は少しだけ救われている。
いつか、もっとちゃんと素直になれる日が来たら......そのときは、ちゃんと伝えたい。

そのときこそ、ちゃんと――「ありがとう」って言うから。