雨音ラジオで君を待つ

玲奈と別れて少しした頃、私の頬にポツリと水滴があたった。
雨……?
空を見上げた瞬間、ぽたり、ともう一滴。
続けざまに、パラパラパラ……と音を立てて、大粒の雨が空から落ちてくる。
まるで誰かが「今だ」と合図を出したように。
あっという間に、世界が水で満たされていく。


「やっば、スコールじゃん」
「早く帰ろ!」


周囲の人たちが傘を慌てて開き、店先に駆け込んでいく。
だけど、私はその場から動けなかった。
どうしよう、雨だ。雨が降ってきた。
待っていたとはいえ、いざ振ると怖気づいてしまう。
だって、夏生があの場所にいてくれるかわからないから。
本当に会えるの? もしいなかったら?
私にくれたあの言葉たちは嘘で、逃げ道をなくしてしまった私は今度こそ立ち直れないかもしれない。
でも……――。


気づけば、私は一歩踏み出していた。
びしゃっ、とスニーカーが水たまりを踏みしめる音がする。
会えないかもしれない。
「雨音ラジオ」は知らずのうちに終わってしまったのかも。


それでも。
それでも私は夏生に会いたい。きっと会えるって信じたい。
会って、話したいんだ。私のこと、いろいろと。
どうせつまらない話だから……って自分で蓋を閉じるんじゃなくて。
今度こそ、ちゃんと知ってほしいから。私という人間を。


この偶然の出会いを、大切にしてみたくなったんだ……――。


「……は……ぁっ……」


私への視線も気にせず、脇目もふらず走る。
全力で駆け抜けたせいか、公園に着いた時にはひどく息切れしていた。
心臓がドッドと激しく脈打つ。
苦しさをこらえながら、「どうかいますように」と願いを込めて土管の中をそっと覗き込んだ。


ギターケース。
ミルクティー色の髪が、雨で濡れて重たく下がっている。


――いた……夏生だ!


「あれ、はれ……か? どした? 顔色悪くね?」

「…………っ」


くるり振り向いた夏生が、私を見て目を丸くした。
「昨日二時間も待ったんだぞー」とか「寒かったんだぞー」とか「雨の日は配信するって言ったじゃん」とか言いたいことはたくさんあったのに、なんだろう……安心したら言葉が出てこないや。
よかった……また会えた。


「つかびしょ濡れじゃん? 傘持ってなかったとか? 俺、家からバスタオル持ってきてるから、とりあえず入ってくるまりなって」


私の腕をグイッと引っ張り強引に土管に連れ込むと、年季の入った花柄のバスタオルをぽいと投げる。


「あ、言っとくけど、ばーちゃん好みの柔軟剤だから。匂いキツイかもだけどガマンして」

「…………」

「だーっもう、早くふけっての」

ボーッとする私の頭をバスタオルでゴシゴシこする。
強い力でゴシゴシ、ゴシゴシ……痛、痛い……。


「痛いってば」


思わず大声を上げると、夏生は「やぁっと声聞けたー」と嬉しそうに笑った。