「どした?」


階段を下りる手前でくるっと振り向いた玲奈が、不思議そうな顔で私を見た。
階段だからか、声が妙に響く。


「ううん、なんでもない」


そう、なんでもない。どうってことない。
玲奈の軽口も「真面目」って言われることも、慣れてる。
だけどやっぱり気持ちが沈むのは、踊り場の窓からも見える、どんよりとした空のせいかもしれない。
その陰りが、ずっと私につきまとう。


「あ、ねぇ。帰り、駅前に出来たドーナツ屋寄りたい」

「……ごめん、今日は――」


玲奈に向かって両手を合わせ、チラリと窓に視線を送った。
つられて玲奈も視線を移す。


「あー、そっか、雨だもんね。病院行くの?」

「……うん。きっとあの子、体調悪くしてると思うから……行ってあげないと」

「そういうとこ、双子だねー」

「え」

「晴歌も朝から顔、青白いし。やっぱ繋がってるんだねー」


玲奈は一人納得し、軽快な足音を響かせながら階段を下りていく。


――繋がってる。


「雨衣ちゃんによろしく言っといてよ。『玲奈が心配してるよー』って。ね?」


――繋がってる。繋がってる。繋がってる。


玲奈の言葉が頭の中でこだまする。


「……ん、わかった。言っとくよ」


小さく呟いた言葉は玲奈に届いたのか。
「早く退院できるといいよね」と言う玲奈に
なんとか笑顔を返して、最後の二段をかけ下りる。
トタン、と響いた私の足音は、信じられないほど重かった。