……へぇ、こんな感じで配信してたんだ。
この前は配信が終わるタイミングだったから、どんな風にやっているのかわからなかった。
想像では機材がいろいろ必要だったり、場所を整えていたりするのかと思っていたけど、実際は、スマホひとつ。
夏生はそれを軽く構えて、冗談を混ぜながら自然に喋っているだけ。
思っていたよりもずっと、ラフで自由なものだった。
少しだけ、時代に取り残されていたのかもしれない。
ラジオなんて、録音されたものを聞くものだと思っていたし、配信にリアルタイムで人が集まってコメントを飛ばすなんて、知らない世界だった。
「――でさ、今日も引き続き重労働で……あ、えーと……『アメノナカさん』コメントありがと。え、重労働ってなにかって? あれ、オレ言ってなかったっけ。ばーちゃんに言われて家中大掃除よ……」
この日、画面に映るリスナーの数は7人だった。
夏生は毎回「初めましての人も」と言っているけど、きっとそのほとんどが固定客だと思う。
実は昨日、雨の日ラジオの過去のアーカイブがあることを知り、いくつか聞いてきたところだった。
毎回だいたい五~十人のリスナーがいて、そのうちコメントをしている人は三人ほど。
「社会人のモナカさん」「大学生のヤマブキさん」そして「高校生のアメノナカさん」だ。
特に「アメノナカさん」は毎回コメントをしている常連リスナーだった。
こんな突拍子もなく始まる配信に毎回コメントを――しかもリアルタイムに送ってこれるのにはわけがある。
彼女は(彼は?)、「学校に行っていなくて」「毎日家の中にいて暇してる」らしい。
アメノナカさんにしろ、モナカさんにしろ、ヤマブキさんにしろ、社会の中でちょっとだけ立ち止まっている人たちが、夏生の話に耳を傾けている。
たぶん、どこかで息をつく場所を探しているんだろう。
その感覚は、少しだけわかる気がした。
夏生の話とギターの音には、なにか不思議な力がある……――なんて言うのはちょっと大袈裟だけど。
彼のおしゃべりはいつも適当で、くだらなくて、不真面目で……でも、人生ってそういうものが時として必要なんだろうなって思うから。
聞いていると、抱えているどんよりしたものを、つかの間忘れさせてくれるんだ。
「アメノナカさん」も言っていた。「雨音ラジオ」は心の安定剤だって。
「――へぇ、アメノナカさんはお姉さんがいるんだ? しかもできる姉ってあなた! できる姉を『かっこいい』って尊敬できるアメノナカさんが、むしろかっけーっすよ。あ、ちなみに俺には妹がいまーす」
ふいに話題が「兄弟」になって、ドキッとした。
私に向けられた言葉じゃないとわかっていても、なぜか体がわずかにこわばる。
「兄弟仲良くがいいよね、ホント。まぁ実際はそんなキレイゴトばっか言ってらんないんだけどね」
私と雨衣は――周りから見れば、きっと「仲のいい姉妹」だと思われているだろう。
でもそれは、私が「しっかり者の姉」として振る舞ってきたから。
優等生で、責任感があって、妹の面倒を見るちゃんとした姉。
身にまとった正しさが剥がれ落ちてしまったら……私たちはどうなってしまうんだろう。
この前は配信が終わるタイミングだったから、どんな風にやっているのかわからなかった。
想像では機材がいろいろ必要だったり、場所を整えていたりするのかと思っていたけど、実際は、スマホひとつ。
夏生はそれを軽く構えて、冗談を混ぜながら自然に喋っているだけ。
思っていたよりもずっと、ラフで自由なものだった。
少しだけ、時代に取り残されていたのかもしれない。
ラジオなんて、録音されたものを聞くものだと思っていたし、配信にリアルタイムで人が集まってコメントを飛ばすなんて、知らない世界だった。
「――でさ、今日も引き続き重労働で……あ、えーと……『アメノナカさん』コメントありがと。え、重労働ってなにかって? あれ、オレ言ってなかったっけ。ばーちゃんに言われて家中大掃除よ……」
この日、画面に映るリスナーの数は7人だった。
夏生は毎回「初めましての人も」と言っているけど、きっとそのほとんどが固定客だと思う。
実は昨日、雨の日ラジオの過去のアーカイブがあることを知り、いくつか聞いてきたところだった。
毎回だいたい五~十人のリスナーがいて、そのうちコメントをしている人は三人ほど。
「社会人のモナカさん」「大学生のヤマブキさん」そして「高校生のアメノナカさん」だ。
特に「アメノナカさん」は毎回コメントをしている常連リスナーだった。
こんな突拍子もなく始まる配信に毎回コメントを――しかもリアルタイムに送ってこれるのにはわけがある。
彼女は(彼は?)、「学校に行っていなくて」「毎日家の中にいて暇してる」らしい。
アメノナカさんにしろ、モナカさんにしろ、ヤマブキさんにしろ、社会の中でちょっとだけ立ち止まっている人たちが、夏生の話に耳を傾けている。
たぶん、どこかで息をつく場所を探しているんだろう。
その感覚は、少しだけわかる気がした。
夏生の話とギターの音には、なにか不思議な力がある……――なんて言うのはちょっと大袈裟だけど。
彼のおしゃべりはいつも適当で、くだらなくて、不真面目で……でも、人生ってそういうものが時として必要なんだろうなって思うから。
聞いていると、抱えているどんよりしたものを、つかの間忘れさせてくれるんだ。
「アメノナカさん」も言っていた。「雨音ラジオ」は心の安定剤だって。
「――へぇ、アメノナカさんはお姉さんがいるんだ? しかもできる姉ってあなた! できる姉を『かっこいい』って尊敬できるアメノナカさんが、むしろかっけーっすよ。あ、ちなみに俺には妹がいまーす」
ふいに話題が「兄弟」になって、ドキッとした。
私に向けられた言葉じゃないとわかっていても、なぜか体がわずかにこわばる。
「兄弟仲良くがいいよね、ホント。まぁ実際はそんなキレイゴトばっか言ってらんないんだけどね」
私と雨衣は――周りから見れば、きっと「仲のいい姉妹」だと思われているだろう。
でもそれは、私が「しっかり者の姉」として振る舞ってきたから。
優等生で、責任感があって、妹の面倒を見るちゃんとした姉。
身にまとった正しさが剥がれ落ちてしまったら……私たちはどうなってしまうんだろう。
