照れ屋……。
「感情がない」とか「真面目」とかはよく言われてきたけど、「照れ屋」って……なにそれ。


「……初めて言われた」

「え、そなの? 自分のこと気恥ずかしくて言えないんだろ? なんて言っていいかわかんないんだろ? 照れ屋じゃん」

「それって……なに? どう反応していいかわかんないんだけど……」

「かわいーってこと。うん、可愛い、可愛い」


うん、うん、と何度も頷き、噛みしめるように「カワイイ」を連呼して……本当に、なんなのこの人。
意味不明。まったくもって意味不明。
てきとうに言ってるに決まっている。


だけど……。


なんでだろう。胸の奥に、今まで感じたことのない気持ちがふつふつと湧いてきた。
なんかちょっと……こそばゆいっていうか……腹が立つっていうか……でもそのどちらとも違う、変な感覚。
体がカーッと熱くって心臓がうるさく跳ねている。


「ふっ……赤くなってる。かわいー」


彼の声が、くすぐるように耳に入ってくる。
赤く……? 私が?


「そ、そういうこと言うのやめて」

「あ、照れてるー」


夏生が、私を指さしてにやにや笑う。
からかい方が、まるで小学生みたいで――ああ、やっぱりこれは「腹が立つ」のほうだったかと確信する。


「っ……だから、そういうのやめて――」

「好きだなぁ。俺、晴歌のこと好きだわ」

「は……あ?」


思わず間抜けな声が出た。
頭が追いつかない。


「こんなところで出会っちゃったのって、やっぱ運命だよなぁ。うん」


夏生は目を閉じ、しみじみと呟いた。
今度こそ本当に意味がわからない。
さっきまでカッと熱くなっていたものがすうっと冷めていく。
なんだ。この人も、上田くん(あいつ)と同じか……。
軽くて、適当で。
言葉の重みを考えない人間。
勝手に失望感を覚える。


「……私のこと、知らないじゃん」

「知らないと好きって思っちゃイカンの?」

「だ、だって……そんなの……変だよ。それに思っても普通は口にしない」

「悪いけど、思ったことは口にすることにしてんだ、俺」


夏生の言葉には、迷いがなかった。
まるで当たり前のことを言っているような、真っ直ぐな声。


あ、この人……――。


夏生は、だからごめんね、と形ばかりの謝罪を残して土管の入口から身を乗り出した。
その背中を見ながら、今感じた既視感(デジャブ)の正体に目を背けたくなる。


――この人、雨衣と似てるんだ。