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「――でさ、俺のばーちゃんがマジで人使い荒いっつうか……雨の日は洗濯物が乾かないからコインランドリー行ってこーい! って、溜めに溜めた洗濯物をオレに運ばせるわけ」
「なんの話」
泣き真似する夏生に容赦なくつっこむと、彼は「ひど」と笑った。
初対面の夏生と打ち解けるのに、時間はかからなかった。
「雨音ラジオ」と同じで、彼はひとりでマシンガンのように喋り続けるから。
私はそれに適当な相づちを打てばいいだけ。
なんて簡単なんだろう。
緊張していたことがバカらしい。
土管から見える景色は相変わらずだけど、一時期よりはマシになった。
帰ろうと思えば帰れるけど、なんとなくさよならを引き延ばしている。
帰ってもどうせ一人だ。
それなら夏生の話を聞く方が楽しい気がした。
「だからー、コインランドリーあそこ。んで、乾くまでの時間、ここでラジオ配信してるって話」
あそこ、と言って公園から目と鼻の先の建物を指さす。
「あ……だから雨の日だけのラジオ。……え、ラジオ配信、ヒマつぶしなの?」
「いやいや、ヒマつぶしで配信なんてしませんて」
なんだそりゃ。
夏生の話はたまに要領を得ない。
だけど、話のいたるところで「ばーちゃん」が出てくることから、おばあちゃんと一緒に暮らしていることはわかった。
高校は隣町にあるT高。私と同じ高校二年生。成績は「サイアク」。髪は地毛(そんなわけない。プリンだし)。ギターは六年前から。
夏生についてわかったことはそれだけだけど、ずっと一緒にいる雨衣や玲奈よりも、気楽に話せてしまう自分がいる。
「晴歌は?」
「え」
「俺ばっか話してる。晴歌のことも教えてよ」
私のことって言われても……。
夏生みたいに面白エピソードがあるわけでもないし、楽器が弾けるわけでもない。
それに、自分のことを話すのは苦手だった。
話してもどうせ「つまらない」って思われるに決まっている。
私の生活なんて、雨衣に捧げているようなもの、「影」のようなものだから。
「特になにもない」
「んなわけないじゃん」
「本当に。普通の……普通の生活なの」
「普通かどうかは俺が決める。さぁ話してごらん」
ふざけた口調のわりに、目はまっすぐで――冗談じゃないとわかる。
「話せって……なにを話せばいいの。私、配信者とかじゃないからエピソードトークなんかできない」
つい可愛くない言い方をしちゃって「しまった」と思った。
こんな時、雨衣ならもっと上手くかわせるんだろうに。
それに例えば、雨衣なら……なんでもない話でも、その話し方や表情一つで周りを盛り上げることができる。
やだな、こんな時も自己嫌悪。
だけど夏生はなにも気にしていないのか、得意げに「なるほど!」と言って手を叩いた。
「なにが?」
「わかったわ」
「いやだからなに……」
「晴歌は『照れ屋』なんだな」
「――でさ、俺のばーちゃんがマジで人使い荒いっつうか……雨の日は洗濯物が乾かないからコインランドリー行ってこーい! って、溜めに溜めた洗濯物をオレに運ばせるわけ」
「なんの話」
泣き真似する夏生に容赦なくつっこむと、彼は「ひど」と笑った。
初対面の夏生と打ち解けるのに、時間はかからなかった。
「雨音ラジオ」と同じで、彼はひとりでマシンガンのように喋り続けるから。
私はそれに適当な相づちを打てばいいだけ。
なんて簡単なんだろう。
緊張していたことがバカらしい。
土管から見える景色は相変わらずだけど、一時期よりはマシになった。
帰ろうと思えば帰れるけど、なんとなくさよならを引き延ばしている。
帰ってもどうせ一人だ。
それなら夏生の話を聞く方が楽しい気がした。
「だからー、コインランドリーあそこ。んで、乾くまでの時間、ここでラジオ配信してるって話」
あそこ、と言って公園から目と鼻の先の建物を指さす。
「あ……だから雨の日だけのラジオ。……え、ラジオ配信、ヒマつぶしなの?」
「いやいや、ヒマつぶしで配信なんてしませんて」
なんだそりゃ。
夏生の話はたまに要領を得ない。
だけど、話のいたるところで「ばーちゃん」が出てくることから、おばあちゃんと一緒に暮らしていることはわかった。
高校は隣町にあるT高。私と同じ高校二年生。成績は「サイアク」。髪は地毛(そんなわけない。プリンだし)。ギターは六年前から。
夏生についてわかったことはそれだけだけど、ずっと一緒にいる雨衣や玲奈よりも、気楽に話せてしまう自分がいる。
「晴歌は?」
「え」
「俺ばっか話してる。晴歌のことも教えてよ」
私のことって言われても……。
夏生みたいに面白エピソードがあるわけでもないし、楽器が弾けるわけでもない。
それに、自分のことを話すのは苦手だった。
話してもどうせ「つまらない」って思われるに決まっている。
私の生活なんて、雨衣に捧げているようなもの、「影」のようなものだから。
「特になにもない」
「んなわけないじゃん」
「本当に。普通の……普通の生活なの」
「普通かどうかは俺が決める。さぁ話してごらん」
ふざけた口調のわりに、目はまっすぐで――冗談じゃないとわかる。
「話せって……なにを話せばいいの。私、配信者とかじゃないからエピソードトークなんかできない」
つい可愛くない言い方をしちゃって「しまった」と思った。
こんな時、雨衣ならもっと上手くかわせるんだろうに。
それに例えば、雨衣なら……なんでもない話でも、その話し方や表情一つで周りを盛り上げることができる。
やだな、こんな時も自己嫌悪。
だけど夏生はなにも気にしていないのか、得意げに「なるほど!」と言って手を叩いた。
「なにが?」
「わかったわ」
「いやだからなに……」
「晴歌は『照れ屋』なんだな」
