『――ザァァァ……』

途切れることなく流れ続ける雨音。
あ、ダメだ。
リスナーがいないからやってないのかも。
「雨の日に配信する」って、あれもその場のノリだったのかもしれない。
昨日の話しぶりだと、気まぐれを起こしそうな人のようにも感じる。
それに、目のマークの横にハッキリ書かれている「1」が、なんだか恥ずかしく思えてきた。


指が、停止ボタンに触れかけたそのとき――

「ぅあ?」

間の抜けた声と、ガタンという何かを倒したような音が響いた。


『……えー……ハロー、ハロー。久しぶりの人も初めましての人も、おはよ、こんにちは、こんばんは。雨音ラジオ始まりました』


しばらくして流れてきたのは、ちょっと寝起きっぽい、気の抜けた挨拶だった。
さては……寝てたな。
リスナーがいると気づいて慌てて準備したんだろうか。
想像して「ふっ」と笑みが零れた。
さっきまで吐きそうだったのに、自分でも不思議。
今日はこれを聞きながら歩こう。
イヤホンをきゅ、と耳に押し込み、ゆっくり歩き始めた。


『いやさ、別に言い訳しようってんじゃないけど、今日めーっちゃ重労働してきたのね、俺。まー眠いのなんのって。始めても誰も聞いてないもんだから寝ちゃってたよね。てことで、聞いてくれてる一名のダレカサン、ありがとー!』


バカ正直に言わなくたっていいのに、変な人。
だけど、私に向けて言ってくれた「ありがとう」の言葉が、今は少し嬉しい。


『昨日も弾いたけど、今日も聞いてもらっていいっすか。……あ、昨日聞いてくれてた人かはわかんないけどさ。レパートリーあんまりないから、ゴメンネ』


ププッと笑ったあと、急に静かになった。
ちょっとした緊張感。
やがて雨音に混じって、小さな息遣いが聞こえるような気がした。
それから、ギターの音がぽつりと鳴る。
弦をそっと撫でるようなその音は、静かに空間を満たしていく。


私はギターのことはなんにも知らない。
これが上手いのかも下手なのかも正直わからない。
わからないけど……始まった曲は、さっきまでのいい加減なおしゃべりとは程遠く、どこまでも優しく、心地よかった。
なんの飾り気もないのに、どこかあたたかい。
気づけば、さっきまでのざわつきが少しずつ溶けていくのを感じていた。