――いつだってそう。この世界は、雨衣を中心にまわっている。
たしかに、それまでも僅かな格差、みたいなものは感じていた。
雨衣の方が「カワイイ」と言われる気がする。
ちょっとしたことでも「すごいね」と褒められるのは、いつも雨衣だった。
でも、それはただの思い過ごしだと思ってた。そんなことないって、間違ってるって。
……でも、あの日――確信した。
私と雨衣は双子なのに、誕生日が違う。
日付をまたいで生まれたとかで、私のほうが一日だけ早い。
それが嬉しくて、家では「晴歌の日」「雨衣の日」として、それぞれの好きなことをする決まりがあった。
双子なのに、年に二回お祝いできるなんてラッキーだよね、って。
あの頃は、素直にそう思ってた。
あの日は、私の七歳の誕生日だった。
私の希望でテーマパークに行くはずで、数か月前からその日のチケットを買って、行くのをとても楽しみにしていたんだ。
だけど……行けなかった。
当日朝になって、雨衣が高熱を出したからだ。
生まれたときから体の弱かった雨衣にとって、高熱は危険なサインだった。
母は慌てて病院に連絡し、出発のために詰めていた荷物を床にぶちまけた。
テーマパークは? って聞くことすらできなかった。部屋に漂う空気が、そうさせなかった。
病院に行くために車に乗り込んだところで雨が降ってきた。小雨だった。
『雨だから……どうせ行けなかったわよ』
母がぽつりとつぶやいた、その言葉だけが今でも耳に残ってる。
それに私がなんて応えたかは覚えてないけれど。
結局その日から、雨衣の入院が決まった。
以来、何度も入退院を繰り返している。
カワイソウだと思う。
だけど移動やら入院準備やらで忘れ去られた私の誕生日と違って、雨衣はたとえ病室のベッドの上だとしても、医者や看護師さん、母に囲まれてみんなに「おめでとう」を言ってもらっていた。「大好きよ」と抱きしめてもらっていた。
みんなが雨衣を心配して雨衣の話題ばかりで、私は誕生日だけでなく、存在自体も消されたのかと思った。
そして気づいた。
ああ、この世界は雨衣が中心なんだ……って。
いつだって、どんなときも。
私の人生は、私のものなのに、私が主人公ではないんだ。
私は雨衣の代わりにはなれない。絶対に。
小雨はいつしか激しい雨に変わっていて。
病院の大きな窓ガラスに映る雨は、だけど決して私を慰めるものなんかじゃなかった。
責めてるんだ、私を。
姉なんだからしっかりして。姉なんだからガマンして。
そして極めつけは――
――クルシムノガオマエダッタラヨカッタノニ。
たしかに、それまでも僅かな格差、みたいなものは感じていた。
雨衣の方が「カワイイ」と言われる気がする。
ちょっとしたことでも「すごいね」と褒められるのは、いつも雨衣だった。
でも、それはただの思い過ごしだと思ってた。そんなことないって、間違ってるって。
……でも、あの日――確信した。
私と雨衣は双子なのに、誕生日が違う。
日付をまたいで生まれたとかで、私のほうが一日だけ早い。
それが嬉しくて、家では「晴歌の日」「雨衣の日」として、それぞれの好きなことをする決まりがあった。
双子なのに、年に二回お祝いできるなんてラッキーだよね、って。
あの頃は、素直にそう思ってた。
あの日は、私の七歳の誕生日だった。
私の希望でテーマパークに行くはずで、数か月前からその日のチケットを買って、行くのをとても楽しみにしていたんだ。
だけど……行けなかった。
当日朝になって、雨衣が高熱を出したからだ。
生まれたときから体の弱かった雨衣にとって、高熱は危険なサインだった。
母は慌てて病院に連絡し、出発のために詰めていた荷物を床にぶちまけた。
テーマパークは? って聞くことすらできなかった。部屋に漂う空気が、そうさせなかった。
病院に行くために車に乗り込んだところで雨が降ってきた。小雨だった。
『雨だから……どうせ行けなかったわよ』
母がぽつりとつぶやいた、その言葉だけが今でも耳に残ってる。
それに私がなんて応えたかは覚えてないけれど。
結局その日から、雨衣の入院が決まった。
以来、何度も入退院を繰り返している。
カワイソウだと思う。
だけど移動やら入院準備やらで忘れ去られた私の誕生日と違って、雨衣はたとえ病室のベッドの上だとしても、医者や看護師さん、母に囲まれてみんなに「おめでとう」を言ってもらっていた。「大好きよ」と抱きしめてもらっていた。
みんなが雨衣を心配して雨衣の話題ばかりで、私は誕生日だけでなく、存在自体も消されたのかと思った。
そして気づいた。
ああ、この世界は雨衣が中心なんだ……って。
いつだって、どんなときも。
私の人生は、私のものなのに、私が主人公ではないんだ。
私は雨衣の代わりにはなれない。絶対に。
小雨はいつしか激しい雨に変わっていて。
病院の大きな窓ガラスに映る雨は、だけど決して私を慰めるものなんかじゃなかった。
責めてるんだ、私を。
姉なんだからしっかりして。姉なんだからガマンして。
そして極めつけは――
――クルシムノガオマエダッタラヨカッタノニ。
