『――ザ、アアアア…………』
いきなり私の大嫌いな雨音が聞こえてきて眉をひそめる。
ラジオのはずなのに誰の声もしない。なにこれ。冷やかし配信……?
画面の隅には小さな目のアイコンと、その横に「5」の数字が表示されていた。
これって……リアルタイムで聴いている人の数、だろうか。
こういう配信アプリで五人の人が聴いているって、多いのか少ないのかよくわからない。
『――あー、
ハロー、ハロー。久しぶりの人も初めましての人も、おはよ、こんにちは、こんばんは――雨音ラジオ始まりました』
と思ったら、雨音をバックにいきなり人の声がしてビクリと体が跳ねた。
び……っくりした。男の人、なんだ。
『聴きに来てくれて、ありがと。やー、ここんとこずっと晴れだったからホンット久しぶり。すげー楽してたけど、梅雨入りってことでこれから毎日配信すんのかな。たぶん……いや、きっと?』
ずいぶんくだけた軽いトーク。
雨の日だけ配信するラジオ……ってことなんだろうか。
年齢はわからないけど、声の感じからして私と同じくらいか……ちょっと上。
誰でも配信できる時代ではあるけど、こういうのしちゃうって、よっぽど自信があるんだな。それか承認欲求強め?
なんにせよ、私には無理だ。
『雨って、憂鬱じゃん。気が滅入るっていうか……あ、同じことか』
わはっ、と一人で勝手にウケている。
なにこれ、面白い……のかな。やっぱり私には合わないかも。
そう思って停止ボダンをタップしようとした、そのとき。
『――そんな雨の日をイイモノに上書きしたいんだ、俺』
不意に聞こえてきたそんな言葉に、指が止まる。
『あ、イイモノっつってもね? 急に、雨だーやっほーい! な気持ちになろう……てことじゃなくて。でももし今、これを聞いている誰かのしんどい気持ちが軽くなったり、雨も悪くないかなって思ったりしてくれたらいいなーって、そんな感じ』
イイモノに上書き。
できるんだろうか、そんなこと。雨も悪くないって、思えるようになるんだろうか。
『てことでー、まずは一曲聴いてもらっていいっすか』
ジャン、とギターの音が鳴り響く。
歌うのかと思いきや、どうやら歌声はないらしい。
アコースティックギターの優しい旋律が、雨音にとけるように流れてくる。
静かで、柔らかくて、じんわり染み込んでくるような音。
まるで、雨の中にいる自分に、寄り添ってくれているようだった。
雨も、悪くないって思える日が……いつか、自分にも訪れるのかな。
現実には何も変わっていないはずなのに。
それでも、耳の奥で鳴り続けるその音が、心のどこかに小さな灯りをともしてくれるような――そんな気がした。
いきなり私の大嫌いな雨音が聞こえてきて眉をひそめる。
ラジオのはずなのに誰の声もしない。なにこれ。冷やかし配信……?
画面の隅には小さな目のアイコンと、その横に「5」の数字が表示されていた。
これって……リアルタイムで聴いている人の数、だろうか。
こういう配信アプリで五人の人が聴いているって、多いのか少ないのかよくわからない。
『――あー、
ハロー、ハロー。久しぶりの人も初めましての人も、おはよ、こんにちは、こんばんは――雨音ラジオ始まりました』
と思ったら、雨音をバックにいきなり人の声がしてビクリと体が跳ねた。
び……っくりした。男の人、なんだ。
『聴きに来てくれて、ありがと。やー、ここんとこずっと晴れだったからホンット久しぶり。すげー楽してたけど、梅雨入りってことでこれから毎日配信すんのかな。たぶん……いや、きっと?』
ずいぶんくだけた軽いトーク。
雨の日だけ配信するラジオ……ってことなんだろうか。
年齢はわからないけど、声の感じからして私と同じくらいか……ちょっと上。
誰でも配信できる時代ではあるけど、こういうのしちゃうって、よっぽど自信があるんだな。それか承認欲求強め?
なんにせよ、私には無理だ。
『雨って、憂鬱じゃん。気が滅入るっていうか……あ、同じことか』
わはっ、と一人で勝手にウケている。
なにこれ、面白い……のかな。やっぱり私には合わないかも。
そう思って停止ボダンをタップしようとした、そのとき。
『――そんな雨の日をイイモノに上書きしたいんだ、俺』
不意に聞こえてきたそんな言葉に、指が止まる。
『あ、イイモノっつってもね? 急に、雨だーやっほーい! な気持ちになろう……てことじゃなくて。でももし今、これを聞いている誰かのしんどい気持ちが軽くなったり、雨も悪くないかなって思ったりしてくれたらいいなーって、そんな感じ』
イイモノに上書き。
できるんだろうか、そんなこと。雨も悪くないって、思えるようになるんだろうか。
『てことでー、まずは一曲聴いてもらっていいっすか』
ジャン、とギターの音が鳴り響く。
歌うのかと思いきや、どうやら歌声はないらしい。
アコースティックギターの優しい旋律が、雨音にとけるように流れてくる。
静かで、柔らかくて、じんわり染み込んでくるような音。
まるで、雨の中にいる自分に、寄り添ってくれているようだった。
雨も、悪くないって思える日が……いつか、自分にも訪れるのかな。
現実には何も変わっていないはずなのに。
それでも、耳の奥で鳴り続けるその音が、心のどこかに小さな灯りをともしてくれるような――そんな気がした。
