――雨音が、私を責める。






前日の抜けるような青空とは打って変わって、この日は朝から雨模様。
灰色の、重く暗い空から、とめどなく大粒の雨が降り注ぐ。
空からの水滴は窓ガラスを伝い、涙のような筋を描いていく。


春先から晴天続きで水不足だったらしく、情報番組のコメンテーターは「恵みの雨だ」なんて喜んでいたけど、そんなの全然嬉しくない。
むしろ逆だ。
雨粒が窓ガラスを勢いよく叩くたび、私の頭の中でバチバチと激しく火花が散るようだった。


雨は嫌い。


雨は、私の心に影を落とす。
せっかく凪いでいた気持ちも、荒らされて、跳ね返って、ぐちゃぐちゃになる。
正しさという名の嘘で、真っ白く塗り固めた『私』が、暴かれていくような気がする。


それに、雨が降ると否応なしに思い出す。
彼女を。――雨衣(うい)の存在を。


梅雨なんてなくなればいいのに。
濁った外の世界を眺めながら、私はため息をついた。



「雨、好きなんだ?」


ふいに聞こえてきた声に、ハッと我に返った。
窓ガラスに映る、冴えない表情(かお)の私と目が合う。
そのうしろに佇む得体の知れない男子とも。
誰? と聞こうとして振り向いた瞬間、


「瀬戸さんて帰宅部だろ。ねぇ、誰か待ってんの?」


間髪入れずにそう問われた。


「……友達、を」


男子は「へぇ」と言ってニヤニヤ笑う。


誰だっけ、この人。知ってるような知らないような。
ただでさえ薄暗い教室で、ぼんやりしたこの人をぼんやりと眺める。
男子は背後にある廊下をチラチラ気にしながら、私に好奇の目を向けた。


「てか、瀬戸さんっていつも暇そうっつーか、寂しそうだよね。俺とつきあってみる? 俺たち、ちょうどいいと思うんだけど」

「え」


一気に言われて、頭の中が真っ白になる。今、「つきあってみる?」って言った?
誰が? 私が? この名前も知らない男子と?


「あの……あなたのことよく知らないし、それに」

「あー、いいってそんなの 。ノリだよ、ノリ」

「え、でも」


どうしよう。こういう時、なんて答えればいいかわからない。
この人は私のことを好き……なんだろうか。でも、なんで? どうして? 接点もないのに。
ぐるぐると思考を巡らせていると、その男子がハーッと大きく息を吐いた。


「あーやっぱいいや。ウソウソ」

「え、」


くるりと向きを変えて、男子は何事もなかったかのように歩き出す。
その背中を見た瞬間、思い出した。
あの人……雨衣と同じクラスの人だ――。