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夕方になり、僕の背筋がゾクリと震えた。
風邪でも引いたかな?
そんなことを思いながら電車に乗り駅に着くと、スマホの着信音が駅内に響いた。スマホを見ると父からだった。珍しいなと思いながらスマホをタップする。すると、震える声の父から衝撃の言葉。
「山音、落ち着いて聞きなさい。海音が事故で病院に運ばれた。今から言う病院に……」
海音が事故?
意味が分らない……切羽詰まった父の声に不安感が押し寄せる。
無事でいてくれ。
急いで病院に向かい、息を切らしながら病院の自動ドアをくぐり抜ける。受付で名前を言うと、手術室まで案内された。手術室の前で母がハンカチで目元を押さえながら泣いたいた。そんな母の背中を父が優しく撫でながら、父も泣いていた。
なんだ……。
何が起きている……。
両親の前には手術着の先生。
先生の声が静かな廊下に響いた。
「力およばず……」
今、何て言った?
ウソだろう……。
体に強い衝撃が走る。
頭を強く殴られたような感覚……。
体に穴が空いたような感覚……もう埋めることの出来ない穴が、自分の中に空いた。
俺の……俺の……半身がもういない?
ずっと一緒だった。
二人で一つ。
そんな半身がいなくなる。俺の前から消える?底の無い暗闇に引きずり込まれる、そんな感覚だった。しばらく動く事が出来ず、立ち尽くしていると、後ろから叫ぶような声が聞こえてきた。
「海音!やだ!やだ!いやーー!!」
優奈の声だ。
悲鳴を上げるみたいに、痛々しいほど取り乱し、涙をボロボロと流している。そんな優奈に俺はゆっくりと近づき、そっと背中を撫でた。
「優奈泣かないで、海音は俺だよ」
その言葉にそこにいた全員がこちらを見た。
そう俺は海音だ。
夕方カバンを間違えた山音に文句を言った。スマホの向こうで山音がごめんと笑いながら言っていた。それが山音と話した最後の言葉だった。
優奈は俺に抱きつき、俺の名前を呼び続けた。
「海音……海音……海音……良かった」
そこからは何が何だか分らずに、時間が過ぎていった。気づけば山音の葬儀も終わり、皆が落ち着きを見せていた。母も初めこそ泣き続けていたが、今は気丈に普段の生活を始めている。優奈も少しずつ笑顔を見せるようになっていた。
「海音、おはよう」
「おはよう」
俺がそう言って笑うと、優奈も笑顔でこちらを見る。それから山音の写真に向かって挨拶をした。
「山音、おはよう」
眉を寄せ、グッと唇を噛みしめている。そんな優奈の肩に腕を回し、抱き寄せる。
「優奈……」
「ごめん、ごめん。こんな顔してたら山音に怒られちゃうよね」
そう言って、優奈は笑う。痛々しい笑顔に俺の胸は締め付けられた。


