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 真実――――。

 海音と山音は一卵性の双子だ。

 いつも一緒にいて、一心同体で、ニコイチ。いつだってそんな感じで、小さな頃から二人はいつも一緒にいて、離れることが無かった。そんな二人が羨ましくて、私は二人に何度も何度も声を掛けた。家族以外の他人に心を開かない二人が、少しずつ心を開いてくれた時はホントに嬉しかった。

 そんな二人の片割れが消えたらどうなるのか……私達は誰も気づかなかった。あの日、事故が起きたあの瞬間、すでにそれは起こっていたんだ。海音の心は山音の存在が消え瞬間に、悲鳴を上げて壊れた。自分を殺してしまうほどに……私達はそれに気づかないふりをしていたのかもしれない。事故の日も、葬儀の日も、そっとしておいた方が良いと、腫れ物に触るように一歩引いて見守ってしまっていた。

 海音の心がこんなにも悲鳴を上げていたのに、私達は気づいてあげられなかった。

 ごめんなんて謝りきれない。

 海音の両親でさえも気づかなかった小さな変化。

 時間が経てば大丈夫。時間が解決してくれる。

 そんなわけが無かったのに……。

 小さな変化と……違和感。

 それに気づいたのは私だった。

 海音が自分を俺と呼ぶ。

 違うよ……海音の一人称は僕だよ。


 私が「山音」と呼んだせいで山音は倒れてしまった。急いで優奈は救急車を呼んだ。病院に運ばれた山音に付き添い、私は泣いていた。そして目覚めた山音に私は何事も無かったように話しかけた。そして私もその罪を背負って行くと言った。それを聞いた山音は泣き崩れた。子供の様に嗚咽を漏らしながら涙を流す山音の背を、優しく撫でながら抱きしめると、山音はそのまま眠ってしまった。

 その時までは本当に、海音が亡くなって、山音が海音を演じているのかと思っていた。しかしそんなわけが無い。そんなことが出来るわけが無かった。この医療が発達した世界で、そんな事が出来るはずは無い。歯形なんかを使えばすぐにバレること……。亡くなったのはやはり山音だった。

 それなら何故、海音は山音になり海音を演じているのか……。

 海音は山音に生きていてもらいたかったのでは無いか……。

 真実は海音にしか分らないが、私はそう思った。

 だから私も海音のウソに乗ろうと……海音と一緒にウソを付き続けようと決めた。

 海音が倒れ、泣き崩れたあの日、泣き崩れた海音が心配だからと精密検査が行われた。

 その結果は……多重人格?

 一人の人間の中に多数の人格が現れこと……。

 海音の中に山音がいる。

 海音は海音の中に、山音を生み出すことで、心を安定させた。

 これで納得がいった。

 海音が山音を演じている理由が分った。

 海音は自分を殺してでも、山音に生きていてほしかったんだね。

 気づいてあげられなくてごめん。

 海音にとって。山音の存在は唯一無二の存在だったのに……。

 海音はこんなにも傷ついていたんだ。

 悲しかったんだね。

 辛かったよね。
 
 大丈夫だよ。

 私も一緒にウソを付き続けるから、大丈夫だから。 

 虚無感に沈みゆく海音の手をいすくい上げたい。

 そんな時、病院のベッドの上で、海音が目を覚ました。しかし何かが違った。いつもの海音が山音として海音を演じているのとは違う……。

「海音はバカだな。優奈、海音をよろしくな……」

 山音だ。

 これもまた違う人格なのか?

 それでも山音と話せていることが嬉しい。

 恐る恐るその名を呼んでみる。

「山音……?」

「うん……。俺だよ。驚くよな」

 この感じは山音だ。ぶっきらぼうで、少し意地悪な感じで口が悪い。

「ホント海音はバカだよな。俺なんか生み出しちゃってさ。しょうが無いから俺は海音の中で生きていく。心配ないよ。海音には優奈もいるんだし、あいつを支えてやって」

 私は口元を押さえて涙を流した。山音という心強い同士が出来たみたいだった。私と一緒にウソをついてくれる同士。山音がいてくれるなら安心だと、そう思った。

「……うんっ……うんっ……うっ……くっ……」

 頷きながら泣きじゃくる私の頭に、山音の手がポンっとのった。

「あいつさ……一人にしないでくれって泣くんだぜ。まったく、しょうがない奴だよな。小学生かっての」

 ああ……山音だ……。

 海音が生みだしたもう一人の人格なのに、目の前にいるのは山音だった。

「うん……っ……うん……うっ……海音は大丈夫?」

「あいつは……壊れかけてたから……、いつ外に出てこれるか……俺にも分らない。少し休んで落ち着いたらそのうち出てくるからさ」

「そっか……そっか……よかっ……っ……よかったよーーっ……うぇーーん」

「泣くなって、優奈も苦労するな。迷惑掛けるけど頼んだよ」

「うん……うんっ……まかせて……っ……うぅ……うぇっ……」

「あーもう、泣きすぎ。話なら聞いてやるから」

「山音っ……ふぇっ……うぇーーっ……」

 実質的には山音では無いが、久しぶりに山音と話せた喜びに、私は泣きじゃくった。全てがハッキリして、安心したのもあったのだろう。心から安堵し、思いっきり泣いた。

「山音……っ……ありがとう」

 海音の中の山音の存在に、海音も私も救われたのだった。