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目を覚ますとそこは病院のベッドの上だった。
ここは?
右手が温かい。
ゆっくりと右手を見ると、優奈に手を握られていた。優奈は涙腺が壊れたみたいに、瞳から涙を溢れさせた。
「海音……良かった……っ……急に倒れてっ……ひくっ……ビックリしたんだよ」
優奈の言葉に俺は驚いた。
自分が倒れたことにでは無い。優奈が俺を海音と呼んだことにである。
「海音どうした?先生は疲れが出たんだろうって言ってたよ」
何も無かったように、俺を海音と呼ぶ優奈。
「優奈、お前……」
優奈は俺の瞳をジッと見つめながら笑った。
「やだな……海音てば山音みたい」
泣き顔のまま俺を見て、優奈は笑っている。
優奈……お前……俺の罪を俺と一緒に背負ってくれるのか?
真実をねじ曲げ、ウソをつく俺と共に歩んでくれるのか?
張り詰めていた思いから、解き放たれ、体から力が抜けた。すると俺は一滴の涙を流していた。そういえば海音が俺の前から消えてから、俺は一度も泣いていなかった。回りの人々があまりにも泣くものだから、ずっと泣けずにいたんだ。
「優奈……ごめん……っ……俺……」
瞳から流れ出てしまった涙は、一筋の線となって頬をつたい、大きな粒となって落ちていく。
かっこ悪いと思うのに、溢れ出した涙を自分の意思では止めることは出来なかった。拭っても拭っても涙がこぼれ落ちてくる。
優奈はそんな情けない姿の俺を抱きしめながら、背中をさすってくれた。
「大丈夫だから、分ってるから……何も言わなくていいよ。私も一緒にその罪を背負っていく」
優奈はハッキリとそう言った。
俺はひとしきり泣いてから、また瞳を閉じ眠ると、意識を手放した。
夢を見た。
海音はバカだな……。
違う……俺は山音だよ。
優奈……海音をよろしくな。
なんだ?
どういうことだ?


