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 お墓の前で海音が自分の事を俺と言った。

 俺……。

 海音の一人称は僕。

 山音の一人称は俺。

 言い様の無い違和感はこれだった。

 これは初めからだった。

 手術室前で、山音は「優奈泣かないで、海音は()だよ」そう言ったんだ。あの時は混乱と悲しみで、気づかなかったけど、俺と確かに言っていた。

 その後も、四十九日のお墓の前で、呟く様に小さな声で言ったんだ。

「心配すんな。優奈は()が守るよ」

 あの時はあまりにも小さな声だったため、聞き間違いかと思っていた。

 しかし今、ハッキリとお墓の前で手を合わせながら俺と言った。

 私の前にいるのは海音じゃ無い。

 その真実に気づいてしまい、涙が溢れ出した。

 山音はどんな思いで海音を演じているのか……。

 自分を殺して、海音を演じている。どうしてそこまでするのだろう?

『優奈は俺が守るよ』

 まさか……。

 全ては私のため……。

 あの日、手術室前で泣き散らかしたから……山音は海音になってしまったのだろうか?

 私のせいで、大音は自分を殺した。

 私が山音を殺させてしまった。

 私は海音に生きていて欲しかった。

 そう願ったけど……。

 こんなことは許されない。

 許されるはずが無い。

 ジワリと瞳に涙が集まってくる。体が震えないように、小さく呼吸を繰り返す。

 どうしてこんなことに……。

 ごめん……ごめんなさい……ごめんなさい。

 心の中で何度も謝りながら、山音の背にもたれ、静かに泣いた。

 温かい背中……。

 あなたは海音じゃ無いの?

 海音……あなたはもういないの?

 この背中は誰……。

 海音……あなたに……もう会えないの?

 喉がきゅっと締め付けられ、唇を噛む。

 海音に会えない……その現実に、悲しみが押し寄せてくる。

 海音……海音……海音……。

 大好きな人の名前を何度も心の中で呼ぶと、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちてきた。

 海音……っ……会いたい……海音に……会いたいよ……。

 海音はもう、私の手の届かないところへ行ってしまった……。

 胸が苦しいほど締め付けれる。

 あなたに会いたい……。

 うぅっ……っ……会いたいよ……海音……。

 何も言わなくなった私を、山音は眠ってしまったと思ったみたいだ。

「優奈着いたよ。起きて」

「ん。ありがとう」

 家に着き、私は泣いている顔を見られたくなくて、俯いていた。山音が背を向けたとき、私はその背中に向かって声を掛けた。

「山音また明日……」

 そう言うと、山音が驚いた様にこちらを振り返った。

「お前気づいて……」

 そこまで言って山音は口をつぐみ、それを聞いて更に涙が溢れ出した。

 山音……海音は私をお前なんて呼ばないんだよ……。