桜が嫌いになった理由

 鬱々と酷寒の冬を過ごし、やがて春を迎えた。

 例年春になると急激に忙しくなる職場は、人員不足で修羅場と化した。
 目の下にくまを作って、ふらふらしながら家と職場を往復するだけの生活となったが、ある日覚束ない足元周りに桜の白い花弁が散らばっているのに気づいた。

 それを眺めているうちに、昨年の春、彼女が僕に言った言葉を思い出した。そして足を止め、出ない涙に打ち震えた。

 以来僕は、桜がもっと嫌いになったのだった。



(了)