桜が嫌いになった理由

 僕はもう一度、坂道を踏みしめ中ほどまで登った。
 そして上を向く。
 木々の枝が風で揺れる音がした。

 それらが桜だとしたら、すべてが符号する。

 そう思った瞬間、僕はすっかり力が抜けてしまった。

(そういうことか……)

 桜が散ってしまったあとらしい。
 それで桜祭りも終了したのだろう。
 今年は例年より桜の開花が早かったのかもしれない。

 先週来られたら、こんなことにはならなかっただろう。
 残業代も出さないのに、あの夜残業を命じた上司を、今さらながら恨めしく思った。