翌日、なぜか私は山下くんと二人で中庭のベンチに向かい合って座っていた。
「紗夜、遅いな」
弁当袋の紐を解きながら、こちらを見る。
彼氏から電話かかってきたから先に行ってて!と嬉しそうに笑うから、言われた通りここに来たら山下くんが座っていた。
「そうですね」
どうやら山下くんも紗夜ちゃんに呼び出されたらしく、時折後ろを振り向いて彼女の姿を探していた。
「雛乃、あいつと友達になってくれてありがとな」
「え?」
「紗夜さ、友達作るの苦手だったんだよ。まぁ、小学生の頃の話だけどさ。未だにちょっと心配してたから。雛乃が友達になってくれてよかった」
そう話す目つきはまるで親だ。
人間関係が乏しい私でもわかる。
「彼氏もできたことだし、俺はやっと世話焼きから解放されるかな」
そう、まさに子育てを終えた親の顔なのだ。
そのせいか、変に嫉妬心が出てきたりはせずに自然に笑えた。
「山下くん、紗夜ちゃんのお母さんみたい」
つい笑った勢いで思ったことをそのまま口に出してしまった。
「ごめんなさい。変なこと言った」
「いいよ。雛乃の言う通り、お母さん目線で見てきたんだと思う。紗夜をわかってくれる友達ができて、彼氏もできて。よかったって心から思ってるからさ」
いただきます、ともう待つことを諦めた様子で手を合わせている。
「あの、待たなくていいの……?」
「うん。多分来ないと思うから、雛乃も食べな」
それを聞いて察した。
山下くんにとっては予想ができるような紗夜ちゃんの慣れた行動なのかもしれないけど、多分私の恋の背中を押すために私たちを嵌めたのだろう。
完全に被害者の山下くんに心の中で謝りつつ、紗夜ちゃんにはいきなり二人きりで緊張することは一度置いておいて、心から感謝した。
「雛乃は休みの日とか、なにしてるの?」
緊張とコミュ障が相まって無言になってしまう私に、山下くんはニコニコ笑って話題をだした。
「他校の子と会ってることが多いです」
「そうなんだ。いつから仲良いの?中学?」
こんな面白みのない回答なのに、山下くんはつまらなそうな顔はしなかった。
「幼稚園のころから仲良くて。もう親友を通り越して恋人みたいになっちゃってます」
こうして藍のことを話す日が来るなんて思わなかったな。
大切な友達の話をするのは、こんなにも幸せなことなのかと、自分の中にある藍への気持ちがどんなものか伝わってくる。
「……え、恋人いたの?」
驚いた顔で私のことをまんまるの瞳で捉えている。
「いないいない!いないですよ。いるわけないじゃないですか」
顔の前で右手が尋常じゃない速さで往復している。
「よかった。彼氏がいるなら、こんなところで俺と昼ごはんなんて食べてたら怒られちゃうもんな」
ほっと安堵したような顔で、弁当の中の卵焼きをつついている。
それを一口サイズに箸で切って口に運ぶ姿は品があって、美しいとまで感じた。
「山下くんこそ、彼女さんとかいないんですか?」
「いないよ。いたら、こんなところに座ってないから」
それもそうか。
彼女がいるのに紗夜ちゃんが来なかったからって私とご飯を食べるなんて、普通ありえないよね。
恋人がいないことにほっとしつつ、まっすぐに私を見るその目にドキドキと鼓動は高まって落ち着く暇なんてない。
「ねぇ、紗夜なんか言ってた?」
「山下くんのことは、何も言ってなかったと思うけど……。どうかしたんですか?」
「いや、ほら、三人でご飯食べるなんて俺聞いてなかったからさ。雛乃知ってたのかなって」
なぜか慌てた様子で弁解する。
大丈夫だよ、そんなに慌てなくても。
好きな人が私を気になっているかもしれないなんてありえるはずのない淡い期待なんて持っていないから。
「てか、俺に対して敬語なんて使わないでよ。同い年なんだし、紗夜に話す感じでいいからさ」
「あ、はい」
私が返事をした途端、山下くんはぷっと吹き出して笑った。
「はいじゃないってば」
「そうで、そうだよね。うん、うん」
気持ちいいくらいさっぱり爽やかに笑う。
その楽しそうに上がる口角が、私の口角も自然と上へあげてくれた。
好きな人と二人きりで、緊張しまくっているはずなのに。
今この時間が楽しくて、幸せで。
このまま時間が止まってしまえばいいのになんて、ベタなことを考えたりした。
「紗夜、遅いな」
弁当袋の紐を解きながら、こちらを見る。
彼氏から電話かかってきたから先に行ってて!と嬉しそうに笑うから、言われた通りここに来たら山下くんが座っていた。
「そうですね」
どうやら山下くんも紗夜ちゃんに呼び出されたらしく、時折後ろを振り向いて彼女の姿を探していた。
「雛乃、あいつと友達になってくれてありがとな」
「え?」
「紗夜さ、友達作るの苦手だったんだよ。まぁ、小学生の頃の話だけどさ。未だにちょっと心配してたから。雛乃が友達になってくれてよかった」
そう話す目つきはまるで親だ。
人間関係が乏しい私でもわかる。
「彼氏もできたことだし、俺はやっと世話焼きから解放されるかな」
そう、まさに子育てを終えた親の顔なのだ。
そのせいか、変に嫉妬心が出てきたりはせずに自然に笑えた。
「山下くん、紗夜ちゃんのお母さんみたい」
つい笑った勢いで思ったことをそのまま口に出してしまった。
「ごめんなさい。変なこと言った」
「いいよ。雛乃の言う通り、お母さん目線で見てきたんだと思う。紗夜をわかってくれる友達ができて、彼氏もできて。よかったって心から思ってるからさ」
いただきます、ともう待つことを諦めた様子で手を合わせている。
「あの、待たなくていいの……?」
「うん。多分来ないと思うから、雛乃も食べな」
それを聞いて察した。
山下くんにとっては予想ができるような紗夜ちゃんの慣れた行動なのかもしれないけど、多分私の恋の背中を押すために私たちを嵌めたのだろう。
完全に被害者の山下くんに心の中で謝りつつ、紗夜ちゃんにはいきなり二人きりで緊張することは一度置いておいて、心から感謝した。
「雛乃は休みの日とか、なにしてるの?」
緊張とコミュ障が相まって無言になってしまう私に、山下くんはニコニコ笑って話題をだした。
「他校の子と会ってることが多いです」
「そうなんだ。いつから仲良いの?中学?」
こんな面白みのない回答なのに、山下くんはつまらなそうな顔はしなかった。
「幼稚園のころから仲良くて。もう親友を通り越して恋人みたいになっちゃってます」
こうして藍のことを話す日が来るなんて思わなかったな。
大切な友達の話をするのは、こんなにも幸せなことなのかと、自分の中にある藍への気持ちがどんなものか伝わってくる。
「……え、恋人いたの?」
驚いた顔で私のことをまんまるの瞳で捉えている。
「いないいない!いないですよ。いるわけないじゃないですか」
顔の前で右手が尋常じゃない速さで往復している。
「よかった。彼氏がいるなら、こんなところで俺と昼ごはんなんて食べてたら怒られちゃうもんな」
ほっと安堵したような顔で、弁当の中の卵焼きをつついている。
それを一口サイズに箸で切って口に運ぶ姿は品があって、美しいとまで感じた。
「山下くんこそ、彼女さんとかいないんですか?」
「いないよ。いたら、こんなところに座ってないから」
それもそうか。
彼女がいるのに紗夜ちゃんが来なかったからって私とご飯を食べるなんて、普通ありえないよね。
恋人がいないことにほっとしつつ、まっすぐに私を見るその目にドキドキと鼓動は高まって落ち着く暇なんてない。
「ねぇ、紗夜なんか言ってた?」
「山下くんのことは、何も言ってなかったと思うけど……。どうかしたんですか?」
「いや、ほら、三人でご飯食べるなんて俺聞いてなかったからさ。雛乃知ってたのかなって」
なぜか慌てた様子で弁解する。
大丈夫だよ、そんなに慌てなくても。
好きな人が私を気になっているかもしれないなんてありえるはずのない淡い期待なんて持っていないから。
「てか、俺に対して敬語なんて使わないでよ。同い年なんだし、紗夜に話す感じでいいからさ」
「あ、はい」
私が返事をした途端、山下くんはぷっと吹き出して笑った。
「はいじゃないってば」
「そうで、そうだよね。うん、うん」
気持ちいいくらいさっぱり爽やかに笑う。
その楽しそうに上がる口角が、私の口角も自然と上へあげてくれた。
好きな人と二人きりで、緊張しまくっているはずなのに。
今この時間が楽しくて、幸せで。
このまま時間が止まってしまえばいいのになんて、ベタなことを考えたりした。


