二クラス合同の体育は、男子がバスケで女子はバレーだった。
「じゃあ適当に四人組になってー」
こういう先生の指示があったとき、いつもは仕方なしに混ぜられているとわかるほど嫌な顔をされるけど、今日は違った。
「ひなちゃん、一緒にやろ!」
私の腕を取って、紗夜ちゃんが誘ってくれた。
「そこ混ぜてー!」
意外とグイグイ進んでいく彼女は、二人組の人に声をかけてあっという間に四人組を作り上げた。
すごい。こういうのを陽キャというのか。
他人事のように、そんなことを思ったりした。
男女混合で体育館をふたつに分けるセッティングやらボールやらの準備をしていると、コロコロと足元にバスケットボールが転がってきてシューズにコツンと当たった。
「ごめん、パスして!」
少し遠くで、ボールをぶちまけている中の一人が私に手を振っていた。
顔を上げて数秒。
焦点が合った瞬間、私の心臓は早鐘を打ち始めた。
どうしよう、どうしようどうしよう。
こんなにすぐに、また会えるなんて思っていなかった。
おーい、とこちらに何度も手を振るから、紗夜ちゃんに声をかける間もなく私は足元のボールを手に取った。
「はいっ!」
声が出ているのか、届いているのか、全然わからないけど。
私は両手で思い切りボールを彼に向かって投げた。
トン、と軽い音を立てて、それはほんの少し先に着地した。
そして、結局ころころと転がってこちらへ戻ってきてしまった。
顔全体が、耳まで熱くなるのを感じる。
……うー……。恥ずかしい。
こんな失態を名前を知る前に晒すことになるなんて思ってもみなかった。
「ごめんなさい。あの、どうぞ」
結局、恥を忍んで早足で彼に駆け寄って、直接ボールを渡した。
まだ始まっていないのに、焦りでもうすでに汗だくになっている私は、臭くないかな。
「ありがとう。ごめんね、取りに行けばよかったのに」
そう、本当に申し訳なさそうに私の手から受け取ったボールをお腹の辺りで抱えていた。
「気にしないでください。でも、忘れてもらえると助かります」
なんなら今すぐ記憶から抹消してほしいくらいなのに。
あー、数秒前でいいから戻りたい。
「ひなちゃん!そっちじゃないよ」
慌てた様子で駆け寄ってきた紗夜ちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。
これ以上ここにいると、意識しちゃって変なことを口走ってしまいそうだった。
「あれ、紗夜いたの?」
「いたよ。ねぇいっちゃん、私の友達にちょっかい出さないでくれる?」
紗夜?いっちゃん?
まるでずっと前からの知り合いみたいに話がとんとん進んでいく。
「紗夜の友達だったんだ。俺、こいつの幼なじみの山下伊月」
「あ、私は高橋雛乃です」
そっか、幼なじみ。
そりゃあ話のノリとか、だいたいわかっているよね。藍と私も、そんな感じだもん。
「雛乃ね。よろしく。こいつにはいっちゃんって呼ばれてるけど、雛乃は普通に呼んで」
まっすぐ私に向けられる爽やかで眩しい笑顔についクラクラしてしまう。
なんでこんなに輝いているんだろう。
「はい、よろしくお願いします......!」
思い切り頭を下げる。
口元のニヤケが止まらない。
だって嬉しいんだもん。
紗夜ちゃんが友達って言ってくれたことも、好きな人にこんなに早く巡り会うことができたことも。
あぁ、私生きていてよかったなぁ。
本気でそう思ってしまうほど。
「ひなちゃん行こう。いっちゃんは面白くもなんともない平凡男子だよ」
「ちょっと、お前なぁ。別に平凡でもいいだろ?な、雛乃?」
「へっ!?」
顔が近い。
心拍数が急上昇して、息が苦しいくらい。
「ひなちゃんはピュアなんだから、遊ばないでよね」
そう、半ば強引に引っ張られる。
藍相手にもこういう対応をしたことがないから、よかったのかなと振り向くと、へらっと笑ってピースサインを向ける山下くんがいて、私は軽く会釈をすることしかできなかった。
「じゃあ適当に四人組になってー」
こういう先生の指示があったとき、いつもは仕方なしに混ぜられているとわかるほど嫌な顔をされるけど、今日は違った。
「ひなちゃん、一緒にやろ!」
私の腕を取って、紗夜ちゃんが誘ってくれた。
「そこ混ぜてー!」
意外とグイグイ進んでいく彼女は、二人組の人に声をかけてあっという間に四人組を作り上げた。
すごい。こういうのを陽キャというのか。
他人事のように、そんなことを思ったりした。
男女混合で体育館をふたつに分けるセッティングやらボールやらの準備をしていると、コロコロと足元にバスケットボールが転がってきてシューズにコツンと当たった。
「ごめん、パスして!」
少し遠くで、ボールをぶちまけている中の一人が私に手を振っていた。
顔を上げて数秒。
焦点が合った瞬間、私の心臓は早鐘を打ち始めた。
どうしよう、どうしようどうしよう。
こんなにすぐに、また会えるなんて思っていなかった。
おーい、とこちらに何度も手を振るから、紗夜ちゃんに声をかける間もなく私は足元のボールを手に取った。
「はいっ!」
声が出ているのか、届いているのか、全然わからないけど。
私は両手で思い切りボールを彼に向かって投げた。
トン、と軽い音を立てて、それはほんの少し先に着地した。
そして、結局ころころと転がってこちらへ戻ってきてしまった。
顔全体が、耳まで熱くなるのを感じる。
……うー……。恥ずかしい。
こんな失態を名前を知る前に晒すことになるなんて思ってもみなかった。
「ごめんなさい。あの、どうぞ」
結局、恥を忍んで早足で彼に駆け寄って、直接ボールを渡した。
まだ始まっていないのに、焦りでもうすでに汗だくになっている私は、臭くないかな。
「ありがとう。ごめんね、取りに行けばよかったのに」
そう、本当に申し訳なさそうに私の手から受け取ったボールをお腹の辺りで抱えていた。
「気にしないでください。でも、忘れてもらえると助かります」
なんなら今すぐ記憶から抹消してほしいくらいなのに。
あー、数秒前でいいから戻りたい。
「ひなちゃん!そっちじゃないよ」
慌てた様子で駆け寄ってきた紗夜ちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。
これ以上ここにいると、意識しちゃって変なことを口走ってしまいそうだった。
「あれ、紗夜いたの?」
「いたよ。ねぇいっちゃん、私の友達にちょっかい出さないでくれる?」
紗夜?いっちゃん?
まるでずっと前からの知り合いみたいに話がとんとん進んでいく。
「紗夜の友達だったんだ。俺、こいつの幼なじみの山下伊月」
「あ、私は高橋雛乃です」
そっか、幼なじみ。
そりゃあ話のノリとか、だいたいわかっているよね。藍と私も、そんな感じだもん。
「雛乃ね。よろしく。こいつにはいっちゃんって呼ばれてるけど、雛乃は普通に呼んで」
まっすぐ私に向けられる爽やかで眩しい笑顔についクラクラしてしまう。
なんでこんなに輝いているんだろう。
「はい、よろしくお願いします......!」
思い切り頭を下げる。
口元のニヤケが止まらない。
だって嬉しいんだもん。
紗夜ちゃんが友達って言ってくれたことも、好きな人にこんなに早く巡り会うことができたことも。
あぁ、私生きていてよかったなぁ。
本気でそう思ってしまうほど。
「ひなちゃん行こう。いっちゃんは面白くもなんともない平凡男子だよ」
「ちょっと、お前なぁ。別に平凡でもいいだろ?な、雛乃?」
「へっ!?」
顔が近い。
心拍数が急上昇して、息が苦しいくらい。
「ひなちゃんはピュアなんだから、遊ばないでよね」
そう、半ば強引に引っ張られる。
藍相手にもこういう対応をしたことがないから、よかったのかなと振り向くと、へらっと笑ってピースサインを向ける山下くんがいて、私は軽く会釈をすることしかできなかった。



