さて、どうしよう。
学校に来て早々、どうやって声をかけようか悩んで、もうお昼休みに突入していた。
友達なんて、もう十数年つくっていないから、声のかけ方とか関わり方とか、全然想像すらできない。
髪の毛をめちゃくちゃにするように頭を抱えて、急いでそれを戻した。
今日はいつもより気合いを入れたんだった。
というのも、いつもはドライヤーで乾かしっぱなしのセミロングの髪を、今日は毛先だけ巻いてみたのだ。
好きな人に、会えるかもしれないから。
そう思いながら髪を巻く私はどこか楽しそうで、その反面不安そうな姿が鏡に映っていた。
あのときの不安げな顔はこういう不安かと、納得して周りを見る。
高校に入学して、もう三ヶ月経っているこの教室で、一人なのは私だけに見える。
「高橋さん、なんか今日雰囲気違うね」
「えっ」
おどおどしている私に声をかけてくれたのは、後ろの席に座っている可愛らしい黒髪ボブがゆらゆら揺れる桜井さんだった。
「ほんと?」
「うん。いつもよりかわいい」
肩を竦めて笑う姿は、なんだか藍に重なった。
どうしよう、私クラスメイトと話してる。
自分の踏み出した一歩は無駄じゃなかったと、心がふわふわする。
「嬉しい……」
「高橋さんって、素直で話しやすいね」
「そんなこと、はじめて言われた」
藍とはテンポが合うと感じるけど、歴が違う。
はじめて話して、話しやすいって言ってもらえるなんて。
「ずっと一人でいたい子だと思ってたから、みんなそう思ってるのかも」
それを言われると、何も言い返せない。
元から言い返すつもりはないけど、排他的な私の気持ちは周りに伝わっていたんだな。
「でも声かけてよかった。私ずっと、高橋さんと話してみたかったんだ」
花が咲く瞬間のように、綺麗に笑う。
ついその笑顔に見入ってしまった。
「私も、桜井さんと話せて嬉しい」
まるで私の心の蕾を咲かせるみたいに、考えるより先に声が出ていた。
安全圏から動かなかった私にとって、考えずに発言することは異例で、それなのに心は高鳴っている。
「なにそれ、照れるじゃん!」
くねくねと身体を揺らして、頬を両手で包み込んでいる。
「ひなちゃんって呼んでもいい?」
「うん、嬉しい!」
「私のことは紗夜って呼んで」
人と関わるのって、こんなに楽しいんだ。
今まで自分の中に閉じこもっていたのがバカみたいに、目の前がキラキラしている。
「ねぇ、このあとの体育、一緒に行こうよ」
「うん!」
思い切り頷いた。
一度下を向いて、またこの世界を見たとき、はじめてこの教室の彩りを目にした気がした。
「行こう!」
私の手を取って立ち上がる。
藍は私の手を取って、私を守りながら隣を歩いてくれる存在だった。
でもこの子は、私の手を取って外の世界へ連れ出してくれる、言わば白雪姫の狩人みたいな存在だ。
「ひなちゃん、聞いてもいい?」
更衣室で、キラキラした目で私を見る。
「うん。なに?」
「好きな人とかいるの?」
「えっ!?」
思わず大声が出てしまう。
こんなにすぐに恋バナって飛んでくるものなんだ。
「え、……え?なんで?」
「だって今日、本当にすごくかわいいから。恋したのかなって」
……鋭い。
それほど私を見ていたのかと、今までの行動全部が恥ずかしくなる。
「____実は、昨日一目惚れしちゃって」
かーっと、全身の体温が上がる。
藍に話すより、なんかもっと緊張して手汗が止まらない。
「え!いいじゃん!」
きゃー!と背後に聞こえない声が文字になって浮かんでいる。
まだ私たちしかいないこの場所で、紗夜ちゃんの声はよく響いた。
「え、誰?だれ誰?」
「わかんないんだ。どこの誰なのか、全部」
私の話を聞いて、どんどん生き生きする紗夜ちゃんは、私の肩を掴んだ。
「探そ!私も手伝うから!」
妙にふわふわして楽しそう。
「紗夜ちゃんは、恋とかしてる?」
「え、聞いちゃう?」
頬が小さく緩んだのを、見逃さなかった。
「私最近、彼氏できたんだ。他校の人なんだけどね。だから私、恋の幸せをひなちゃんにも知ってほしい!」
そう話す姿は本当に幸せそうで、私までふわっとした幸せに包まれてしまうほど。
「作戦会議しよ!今日の放課後、空いてる?」
「あ、ごめん……。今日は予定あって。明日ならいいんだけど……」
初っ端から誘いを断るなんて、友達になれるのかな。もうこのチャンスは逃してしまうことになるのかな。
「おっけー!じゃあ明日の放課後、約束ね!」
私の心配なんて一息で吹き飛ばして、にこりと笑った。
久々に楽しみだなんて、藍に失礼かな。
そう思いながらも、私はこのわくわくを終わらせることができる気がしなかった。
学校に来て早々、どうやって声をかけようか悩んで、もうお昼休みに突入していた。
友達なんて、もう十数年つくっていないから、声のかけ方とか関わり方とか、全然想像すらできない。
髪の毛をめちゃくちゃにするように頭を抱えて、急いでそれを戻した。
今日はいつもより気合いを入れたんだった。
というのも、いつもはドライヤーで乾かしっぱなしのセミロングの髪を、今日は毛先だけ巻いてみたのだ。
好きな人に、会えるかもしれないから。
そう思いながら髪を巻く私はどこか楽しそうで、その反面不安そうな姿が鏡に映っていた。
あのときの不安げな顔はこういう不安かと、納得して周りを見る。
高校に入学して、もう三ヶ月経っているこの教室で、一人なのは私だけに見える。
「高橋さん、なんか今日雰囲気違うね」
「えっ」
おどおどしている私に声をかけてくれたのは、後ろの席に座っている可愛らしい黒髪ボブがゆらゆら揺れる桜井さんだった。
「ほんと?」
「うん。いつもよりかわいい」
肩を竦めて笑う姿は、なんだか藍に重なった。
どうしよう、私クラスメイトと話してる。
自分の踏み出した一歩は無駄じゃなかったと、心がふわふわする。
「嬉しい……」
「高橋さんって、素直で話しやすいね」
「そんなこと、はじめて言われた」
藍とはテンポが合うと感じるけど、歴が違う。
はじめて話して、話しやすいって言ってもらえるなんて。
「ずっと一人でいたい子だと思ってたから、みんなそう思ってるのかも」
それを言われると、何も言い返せない。
元から言い返すつもりはないけど、排他的な私の気持ちは周りに伝わっていたんだな。
「でも声かけてよかった。私ずっと、高橋さんと話してみたかったんだ」
花が咲く瞬間のように、綺麗に笑う。
ついその笑顔に見入ってしまった。
「私も、桜井さんと話せて嬉しい」
まるで私の心の蕾を咲かせるみたいに、考えるより先に声が出ていた。
安全圏から動かなかった私にとって、考えずに発言することは異例で、それなのに心は高鳴っている。
「なにそれ、照れるじゃん!」
くねくねと身体を揺らして、頬を両手で包み込んでいる。
「ひなちゃんって呼んでもいい?」
「うん、嬉しい!」
「私のことは紗夜って呼んで」
人と関わるのって、こんなに楽しいんだ。
今まで自分の中に閉じこもっていたのがバカみたいに、目の前がキラキラしている。
「ねぇ、このあとの体育、一緒に行こうよ」
「うん!」
思い切り頷いた。
一度下を向いて、またこの世界を見たとき、はじめてこの教室の彩りを目にした気がした。
「行こう!」
私の手を取って立ち上がる。
藍は私の手を取って、私を守りながら隣を歩いてくれる存在だった。
でもこの子は、私の手を取って外の世界へ連れ出してくれる、言わば白雪姫の狩人みたいな存在だ。
「ひなちゃん、聞いてもいい?」
更衣室で、キラキラした目で私を見る。
「うん。なに?」
「好きな人とかいるの?」
「えっ!?」
思わず大声が出てしまう。
こんなにすぐに恋バナって飛んでくるものなんだ。
「え、……え?なんで?」
「だって今日、本当にすごくかわいいから。恋したのかなって」
……鋭い。
それほど私を見ていたのかと、今までの行動全部が恥ずかしくなる。
「____実は、昨日一目惚れしちゃって」
かーっと、全身の体温が上がる。
藍に話すより、なんかもっと緊張して手汗が止まらない。
「え!いいじゃん!」
きゃー!と背後に聞こえない声が文字になって浮かんでいる。
まだ私たちしかいないこの場所で、紗夜ちゃんの声はよく響いた。
「え、誰?だれ誰?」
「わかんないんだ。どこの誰なのか、全部」
私の話を聞いて、どんどん生き生きする紗夜ちゃんは、私の肩を掴んだ。
「探そ!私も手伝うから!」
妙にふわふわして楽しそう。
「紗夜ちゃんは、恋とかしてる?」
「え、聞いちゃう?」
頬が小さく緩んだのを、見逃さなかった。
「私最近、彼氏できたんだ。他校の人なんだけどね。だから私、恋の幸せをひなちゃんにも知ってほしい!」
そう話す姿は本当に幸せそうで、私までふわっとした幸せに包まれてしまうほど。
「作戦会議しよ!今日の放課後、空いてる?」
「あ、ごめん……。今日は予定あって。明日ならいいんだけど……」
初っ端から誘いを断るなんて、友達になれるのかな。もうこのチャンスは逃してしまうことになるのかな。
「おっけー!じゃあ明日の放課後、約束ね!」
私の心配なんて一息で吹き飛ばして、にこりと笑った。
久々に楽しみだなんて、藍に失礼かな。
そう思いながらも、私はこのわくわくを終わらせることができる気がしなかった。



