月曜日の放課後。
山下くんが目の前に立っていて、それだけでどうにかなってしまいそうなのに。
「ねぇ、明日の放課後、ひま?」
そんな話を持ちかけられた。
「うん。ひまだよ」
心がドキドキして、手元も落ち着かない。
ちゃんと受け答えができているか心配になるくらい、私の頭の中はときめきで溢れていた。
「遊びに行こうよ。二人で」
「うん、行く」
思わぬ約束をして、山下くんは満足そうに部活へ向かった。その後ろ姿が愛しくて、こんな気持ち、知らない。
私もふわふわした足取りで帰路に着くと、近くの神社が目に入った。
「ありがとうって言って帰ろうかな」
鳥居に近づくたび懐かしさを感じて、それをくぐった向こうにいる女の子に、ぶわっと記憶が蘇る。
「……あ、藍……」
「うん。おかえり」
彼女はいつにも増して寂しそうで、今にも消えてしまいそうで。
……私が心で消していたから、そう見えるのかもしれないけど。
「……藍、私ね、もしかしたら病気かもしれない」
もう認めざるを得なかった。
あの日一度思い出してから、ここに来るまで存在すら忘れていたなんて。
……私はなんて、酷い人間なんだろう。
「大丈夫。雛乃は病気なんかじゃない」
「でも私、藍のこと存在自体忘れてた。これで病気じゃないなら、なんだっていうの?」
もう泣きそうになりながら、土を握りながら訴える。
一番忘れてはいけない親友を記憶から消し去っていたなんて、そんな酷いことを受け入れてくれるその優しさが今はすごく痛かった。
「本当に違うの。ちょっと子どもから抜け出せていないだけで、あなたは普通なんだよ」
藍の言っている意味が私にはさっぱりわからなかった。
「ねぇ、聞いてくれる?私の話」
私が無言で頷くと、藍は微笑んで話し始めた。
「私はあなたの友達。でも、他の人には見えないの。雛乃だけのために生まれてきた幻想の友達だから」
何を言っているの?
学校の愚痴も聞いてくれた。
たまに、藍だって愚痴をこぼしていたじゃないか。
こうして、触れることだって……。
まっすぐ伸ばした手は、触れるか触れないかのギリギリでカタカタと震え始めた。
もしこれで触れられなかったら。
そう考えると、怖かったから。
「普通は忘れるの。年齢を重ねると友達ができて、勉学が忙しくなって。消えたことも思い出せないくらい簡単に、心から消滅するの」
「やだ、そんなのやだよ。もう忘れないから!そんなこと言わないで」
手が地面に擦れて痛い。
痛いけど、胸の方が痛くて痛くて仕方ない。
今どきの若者みたいなことはできなかったけど、私はこうして放課後ここで話すだけで幸せなのに。
「忘れていいの。忘れないといけないの。もう、あなたは前を見て歩いていかないと」
納得できない。
でも、藍の今までの言動にはやっと納得できた気がする。
変に寂しそうだったり、友達を作らせようとしたり。変なところで泣きそうになっていたり。
それが全部私のためだったなんて。
____私の前からいなくなるためだったなんて。
「そんなの、嫌だ。藍を失うくらいなら、今までと変わらないままでよかったのに」
「ちょっと!雛乃!」
藍が呼ぶ声を無視して走った。
手に付いた砂をそのままに、現実から目を逸らすようにただ走った。
藍の声が好きなのに。
私の名を呼ぶその声が、私の心を落ち着かせてくれるのに。
藍の笑顔が、藍の聞き上手なところが、藍のたまにちょっと厳しいことを言う口調が。
藍のこと、全部存在自体が大好きなのに。
私は明日まで、覚えていられるのかな。
動いてしまった時計を止めることなんて、自力じゃできないから。
眠るのが怖くて怖くて仕方なかった。
山下くんが目の前に立っていて、それだけでどうにかなってしまいそうなのに。
「ねぇ、明日の放課後、ひま?」
そんな話を持ちかけられた。
「うん。ひまだよ」
心がドキドキして、手元も落ち着かない。
ちゃんと受け答えができているか心配になるくらい、私の頭の中はときめきで溢れていた。
「遊びに行こうよ。二人で」
「うん、行く」
思わぬ約束をして、山下くんは満足そうに部活へ向かった。その後ろ姿が愛しくて、こんな気持ち、知らない。
私もふわふわした足取りで帰路に着くと、近くの神社が目に入った。
「ありがとうって言って帰ろうかな」
鳥居に近づくたび懐かしさを感じて、それをくぐった向こうにいる女の子に、ぶわっと記憶が蘇る。
「……あ、藍……」
「うん。おかえり」
彼女はいつにも増して寂しそうで、今にも消えてしまいそうで。
……私が心で消していたから、そう見えるのかもしれないけど。
「……藍、私ね、もしかしたら病気かもしれない」
もう認めざるを得なかった。
あの日一度思い出してから、ここに来るまで存在すら忘れていたなんて。
……私はなんて、酷い人間なんだろう。
「大丈夫。雛乃は病気なんかじゃない」
「でも私、藍のこと存在自体忘れてた。これで病気じゃないなら、なんだっていうの?」
もう泣きそうになりながら、土を握りながら訴える。
一番忘れてはいけない親友を記憶から消し去っていたなんて、そんな酷いことを受け入れてくれるその優しさが今はすごく痛かった。
「本当に違うの。ちょっと子どもから抜け出せていないだけで、あなたは普通なんだよ」
藍の言っている意味が私にはさっぱりわからなかった。
「ねぇ、聞いてくれる?私の話」
私が無言で頷くと、藍は微笑んで話し始めた。
「私はあなたの友達。でも、他の人には見えないの。雛乃だけのために生まれてきた幻想の友達だから」
何を言っているの?
学校の愚痴も聞いてくれた。
たまに、藍だって愚痴をこぼしていたじゃないか。
こうして、触れることだって……。
まっすぐ伸ばした手は、触れるか触れないかのギリギリでカタカタと震え始めた。
もしこれで触れられなかったら。
そう考えると、怖かったから。
「普通は忘れるの。年齢を重ねると友達ができて、勉学が忙しくなって。消えたことも思い出せないくらい簡単に、心から消滅するの」
「やだ、そんなのやだよ。もう忘れないから!そんなこと言わないで」
手が地面に擦れて痛い。
痛いけど、胸の方が痛くて痛くて仕方ない。
今どきの若者みたいなことはできなかったけど、私はこうして放課後ここで話すだけで幸せなのに。
「忘れていいの。忘れないといけないの。もう、あなたは前を見て歩いていかないと」
納得できない。
でも、藍の今までの言動にはやっと納得できた気がする。
変に寂しそうだったり、友達を作らせようとしたり。変なところで泣きそうになっていたり。
それが全部私のためだったなんて。
____私の前からいなくなるためだったなんて。
「そんなの、嫌だ。藍を失うくらいなら、今までと変わらないままでよかったのに」
「ちょっと!雛乃!」
藍が呼ぶ声を無視して走った。
手に付いた砂をそのままに、現実から目を逸らすようにただ走った。
藍の声が好きなのに。
私の名を呼ぶその声が、私の心を落ち着かせてくれるのに。
藍の笑顔が、藍の聞き上手なところが、藍のたまにちょっと厳しいことを言う口調が。
藍のこと、全部存在自体が大好きなのに。
私は明日まで、覚えていられるのかな。
動いてしまった時計を止めることなんて、自力じゃできないから。
眠るのが怖くて怖くて仕方なかった。


