ようやく本題のザリガニ釣りに移る。用意した道具はタコ糸とさきいかのみ。後はその辺に落ちている木の棒に括りつけ、即席釣竿の完成だ。
「あのねぇ、あなた」
あなた、と相手をなじるときのA君は説教モードの時だ。私はその言葉の先を察してしまったので、謝罪モードの体勢をとる。両腕を身体のラインに沿わせ、背筋を伸ばす。
「言い出しっぺの癖になんで俺に準備させるのよ」
これらの材料は全てA君が買ってきてくれた(ちゃんと代金は割り勘した)。その経緯は覚えていないが、少なくとも彼にやらせたのは事実。大変申し訳。
更に言えば、釣竿を作ってくれたのもA君だ。聞けば彼は地元でも釣りを嗜んでいたらしく、この手のことに関しては滅法詳しく、手慣れていた。この数ヶ月後、私はA君とC君と共に冬の海へ繰り出し、大量の鰯を釣ってたらふく食べることに成功するのだが、これはまた別の話。
「ねぇ、Nちゃん……」
「ん?」
「嫌だったら無理しなくていいんだからね?」
隣で釣竿を持つNちゃんに話しかける。
彼女は人見知りの傾向があり、このような集まりがあっても私が居ない限り顔を出さない。ただ、皆と遊びたいという気持ちもあるのはちゃんと伝わってくる。だから、本当はザリガニなんか釣りたくないけれど無理して付き合ってくれているのでは、と勘ぐってしまったのだ。華の女子大生が、澱んだ池に生きる甲殻類に触れたいはずがない。
「ううん、楽しいよ」
Dさんと似た回答。ますます不安になった。
「本当に?」
「ほんとほんと。面白そうじゃん」
確かに、彼女の微笑みからは紛れもない興味が滲み出ていた。この時にはまだ気がついていなかったが、Nちゃんはあまり偏見を持たない。基本的に、良い人か悪い人かで判断するので、やばい思考を持つというだけでは引いたりしない。
こんなヘンテコ話に乗ってくださってありがとう、マドンナ様。
